秋刀魚の味


秋刀魚の味」をDVDで。岩下志麻のうつくしいこと。それだけでなく、笠智衆が勤めている会社の、ちょっとだけ登場するOLたちがどの人もみんな美人だ。最近の洋服がそういうスタイルだからかもしれないけど、映画に出てくる女性たちの服装が、今見てもまったく古びたものに見えない。うちの会社の女性たちでも、わりとかっちりした格好をするタイプだと、映画とほとんど同じようなデザインの服を着ているような気がする。


加東大介笠智衆が、岸田今日子のいるバーで軍艦マーチで踊るシーンの直前、加東は笠に「なんで日本は負けたんでしょうね」とつぶやく。その後で笠は「いやあ、でも負けて良かったよ。」と言う。戦争中、笠智衆駆逐艦の艦長で、加東大介は乗組員だった。


笠智衆中村伸郎も北竜二も、それぞれ会社の役職みたいな偉い人である。彼らが主催したクラス会に中学生時代の恩師である東野英治郎を招くのだが、今では東野は、独身の娘と二人で小さなラーメン屋を細々と営む侘しい暮らしである。


加東にせよ東野にせよ、娘の杉村春子にせよ、もちろん笠智衆中村伸郎も北竜二も、笠の家族も含めて、思わず目を背けたいような、できれば隠しておきたいような、誰もが見てみぬふりをしたくなるというか、あえて目につかない場所に置いておくべきことのような、そういうのが、だらーっと投げ出されている感じだ。この映画の登場人物たちは、みな、たまたまそこにいるだけの、ある意味おそろしいほどに幸運な、あるいは不幸な、いずれにせよ一歩間違えたら、全くそうではなかったはずの、全くその場所にはいなかったはずの、たまたま偶然、そこにいる人たちばかりである。情けなくて苦笑したくなるほどである。


最後、笠智衆佐田啓二の話を聞いて、岩下志麻がすっと下を向いて、こっそりとしょげているシーン。あれは本当に、何度見てもかわいそう。ああ、かわいそう、と思う。


最後、笠智衆が一人で岸田のバーに飲みに行くところ。笠は岸田をぼーっと見つめる。死んだ奥さんに似ている、ような気がすると、笠は思っているのだ。でも、たぶん似てないのだろうね。面白いことに、岸田今日子の姿がそんな感じに見えるのだ。どんな人か知らないのに「たぶん似てないのだろうな」と思わせるような、岸田の貼り付けたような笑顔。


ふたたび、軍艦マーチが再生される。隣の客が「大本営発表」の口真似をして「(…)負けました!負けました!」と言って笑う。