待っていると、奥からごそごそと物音がして、さっきの男がすまなそうに戻ってきて「少し狭い席ですが、ご用意しますので。」と目を合わさずに言う。それを聞いて鈴木さんはやや表情を曇らせたように見えたが、その男の案内に従ってぐんぐんと進むので、僕も後を追う。席は予想したよりも…とは言わないが、というか、はじめから次の予想などできない情況だが、それでも事実として予想したよりもひどいと言うべき場所で、従業員たちが右往左往する場所のちょうど真ん中へんにぽっかり空いた狭いスペースに、とってつけたようにソファとテーブルが配置してあるかのようで、従業員の女の子たちの休憩する場所なんかの方がまだ落ち着くのでは、とさえ思えるほどで、それでもとりあえず二人向かい合って腰掛けて、そのすぐ脇を、ばたばたと色々な人が走り抜けていくのをきょろきょろと見回しているばかりだ。あまりにも慌しくて、テーブル上のグラスが倒れないか心配になるほどだ。こんな席、バカバカしいというか滑稽で、店の子なんか来ないんじゃないかと思うくらいだ。なにしろ序盤から酷い状態だが、鈴木さんはむしろ活き活きとした表情で周囲を見回している。「今日はいいぞ。」と言うので「そうなんですか?」と応えると「お前、見てわかんないのか?今日はぜんぜんいいだろ。」と言う。何がいいのかさっぱりわからないので「そうですか。よくわからないですけど。」と応えると「素人はこれだからいやだよ」と言って傲然とした表情でソファに背をあずけてふんぞり返っている。