親指ピアノ


素晴らしい晴天だったので、かえって気が億劫になった。昨日借りてきた本でも読み散らかしながら一日中家の中に寝そべっていれば良いと思っていたのに、この陽気だとそうもいかないというか、せっかくの晴天なのに、それだと勿体ないようにも思えて、さてどうするべきなのかと迷った末、結果的には隣の駅まで夕食の食材を買い物に行って帰ってきましょうという無難なところに落ち着く。午後から出かけたが、真夏並みとまでは行かないまでも着てきた長袖のシャツを脱いで手にもって、帰宅するまでずっとそのまま、というくらいの日差しで、行きも帰りも日影の多い道の片側ばかりを選んで歩いた。先週あたりから突然咲き誇ったキンモクセイの香りがあたり一帯をつつんでいて、日差しは強いが気温は高くもないが、歩き続けているとうっすらと汗が湧き出てくるので、スーパーの食品売り場の強烈な冷房に体を晒しているのが心地よい。


とつぜん親指ピアノの音楽が聴きたくなったので検索していくつか聴いている。「Kalimba & Kalumbu Songs」というやつ。あとHukwe Zawoseの「Chibite」というやつ。…この、「Chibite」のジャケット、今でもおぼえてるわ。二十年ほど前に、ミュージックマガジンか何かに紹介されてたのをおぼえている。あまりにも強烈なジャケで、うーん、あんまり買いたくない、と思った…。ので、彼はそれを、約二十年後に聴くことになる。


僕がかつて、はじめて親指ピアノの音を知ったのは、御多分にもれずking crimsonのLarks' Tongues in Aspicである。このレコードは、聴いたのは更に大昔で、とにかく何度も聴いていて、いいとか悪いとかそういうことはどうでもいいという状態で聴き続けてしまったのだが、今時点で、どう思ってるかと言うと、べつに全然いいとは思わないレコードではあるのだが、しかし冒頭のジェイミー・ミューアによる親指ピアノの数分間にもおよぶ導入のところ。あの箇所だけはほんとうに素晴らしくて、あそこだけ聴きたくて今でもたまにアルバムを探すほどだ。(そしてLarks'Tongues in Aspic, Part 1の主旋律が始まる前に再生をストップする…と。)今日も要するに、ああいうのが聴きたいと思っていたのに近い。