御苑/SUBWAY


不調のPCは、結局初期化した。しかし時間が掛かる。なぜ僕は、というか我々は、ファイルコピーが進行するPCの様子を、ただじーっと見ていたくなってしまうのか。進捗状況をパーセンテージで示されると、その進む様子をじっと見つめてしまって、いったいそこに何を感じ取ろうとしているのか。


今日は終日在宅で過ごすかと思ってたが、あまりにもすばらしい晴天なので出掛けた。昼の三時過ぎ頃、新宿御苑に着く。公園脇のレストランやカフェはどのテラス席にも客がいる。たしかに今日はそういう天気だ。新宿御苑大温室にはじめて入った。ずっと水の音がすると思ったら人工の滝の音だった。見物している人々のざわめきと滝の音が、多湿な密閉空間内に響いてリバーヴが掛かったようになっていて、音だけ聞いてると、なんかものすごくダヴィというか、かなりカッコいいライブ盤の、曲がはじまる直前のタイミングがそのまま延々引き伸ばされてるような雰囲気だった。前にいるカップルの後頭部から背中から足元まで、やたら色々と細かい塵芥が付いていて一瞬何事かと思ったけど、なるほど二人で芝生に寝転んでたのだとわかった。


やや日が翳り始めた公園の芝生が黄金色に光っていた。その上を人々が、座り込んだり寝そべったり、ぽつんぽつんと点在して、その場に長い影を落としている。巨大な桜の木が光を受けて濃いなめらかな陰影のコントラストだけの何かとして立っている。いつものことながら、公園の不思議を感じた。ここにいる無数の人々はなぜ、今ここにこうしているのかと。そんなところに居てもまるで無意味じゃないか。しかし人間たるもの、常に目的や行き先をかかえている訳でもなく、非機能的に、無意味に、説明不可なまま、その場に座って、ぐったりと休んだり居眠りするものなのだ。まるで、そのことを生まれて初めて知ったかのような僕が、ついしげしげと目の前の景色を見つめてしまう。全員まじめか?本当は演技してるんじゃないのか?と思うくらい、誰もが何の脈絡ももたず、いきなり配置されたような、その唐突さはほとんど不条理劇の舞台めいていた。ある意味、天国的な、彼方の景色というか、この世から離脱した場所、語りえぬ場所の景色、という感じでもある。もし今日が人類最期の日で、皆がこうして夕日を見ながら芝生に寝そべったりしつつ、それぞれ静かに最期の時間を過ごすのだとしたら、もしこの景色がそれだとしたら、なかなか感動的に思えなくもなかったが、むしろそういう想像の時点で安っぽいようにも思えて、それよりは今見えているこの現実のままで、これが本当にありふれた出来事としての人類最期、とも思いたいようなものだった。蝋梅が花を咲かせていて、他にも早咲きの梅もいくつか。蝋梅は、風下に移動して寒さを我慢していると、嗅覚の奥にふっとあの香りを運んでくる。そこに佇みながら、花にせよ、飲酒にせよ、やっぱり一月や二月の極寒のなかでそれらにふれるのが、もっとも味わい深いものなのかもしれないなあ…などと思ってハッとして、我ながらそれが、なんという如何にもな、紋切り型な、風情ありすぎな、侘び寂び趣味っぽい、風流を気取った恥ずかしい感じ、いやいや、ぜんぜんそんなつもりじゃないんですけど、、な考え方だろうか、との思いが交差して内心取り乱した。


公園を出て新宿ツタヤへ。ツタヤはどうもあの建物のフロア全部(5F〜8F)がCDレンタルだけになってしまったようだ。DVDとかは歌舞伎町の別の建物に移動して2月からオープンらしい。エレベーターを待つのが面倒なので、毎度のごとく8Fまで登山する。借りたいものを探してると階段を下りたり上ったりするので、この店は本当に、店内にいるあいだずーっと有酸素運動してるようなものだ。下山後、向かいの紀伊国屋にも再登山する。疲れて、すっかり暗くなって、ちょうどいい時間だし、夕食はどこで食うかと考えたのだけれども、結局、家に帰ることにした。なんだつまんないなあ、と思って、でもそのときふと、サンドイッチをワインで、あんまり芳醇じゃない安い赤で粗野に食う。それがいい、その組み合わせは最高だ・・と、俄然心が躍り始めたので、サンドイッチを買おうと、そうだ駅前のサブウェイでテイクアウトしよう、ということにした。サブウェイって今まで一度しか行ったことがなくて、しかも前回のことはまったくおぼえてないので、注文方法などを事前にウェブで見たりして、それで最寄駅前の店で注文すると、かわいい女性スタッフがニコニコしながら作ってくれるのだけれども、やり方が、けっこうワイルドというか、大雑把というか、へえ、すごいなあ、脇からいっぱいはみ出してるけど、それでOKなの?そうかあ、いいねえ、すごいねえ、と思った。なんか、想像してたよりもずっしりと重くて、ガッツリとボリュームもあって、味わいもはっきりとわかりやすい食い物だった。いやいや、ちょっとこれ、こんなの二つも食べられないかも、というくらいの。まあ、こんなもんか。サブウェイ、よかった。まあまあだった。