これぞ寒さだと思わず言いたくなる。緩さはどこにもない。徹頭徹尾妥協のなく全身を包むものが内側の熱を一気に奪っていく。いや、これほどとは思わなかったな、驚いたね、と思わず口をついて出る。これでもまだ極寒地域よりはずいぶんまし、日本人は冬の本当の寒さを知らないね、とロシアの人なら言うのだろうけれども、日本の四季もほんとうに不思議だね、とも言う。ついこの前まであんなに蒸し暑かったのに、今日のこんな夜なんか想像もできないほどだったのに。まったく同じ場所の空間を今はこれだけの寒さが占めているのだからほとんど現実とは思えない。とはいえ暗い街灯がぽつぽつと灯るだけの夜道の傍らの水路には時折灯りを反射させながらやわらかい音を立てて黒い水がひたすら流れているのだから、この水の冷たさは如何ほどか、この水さえ凍るほどの寒ささえ現実にはありうる、想像の限界、想像されうる苦痛の限界の想像だ。半分気を失いつつ地の果ての広がり、ロシアの湿地帯を行く。