窓口


「おい、金が・・・」


だだっ広い空き地に埃が舞っている。風が出てきた。
時間は、いつもと変わらない速度でゆっくりと進んでいる。


「いま、正面の建物の脇にいるんだよ。まだ、準備できてないみたいだぞ。」
「あー、うんうん、ちょっと待ってて。」
「早く来てくれよ。」
「はーい。はいはい。」


晴れた、春の日だ。今日で決定的に、冬が終わったようだ。
まだ寒い日は明日以降もあるかもしれないが、それでも、たぶんもう冬じゃない。


「何時くらい?二時か三時なら大丈夫か?」
「いや、うーん。ちょっと難しいなあ。」
「え?駄目か。ちょっと、夕方になったら、人が来るんだよ。」
「え?そうなの?そりゃ困ったな…」
「なあ、持って来れそうか?なんとかなるか。」
「うーん、わかった。わかりました。ちょっと待ってて。」
「頼むな。うん、はいはい。よろしくな。」


一気に建物の外へ出た。思ったよりも肌寒く、目の前の交差点が小雨で煙っていた。
歩行者用信号が青に変わるまで、固まったように立ち尽くした。
寒さが、上着を着てない身体の内側にまでじょじょに浸透してくるようだった。
このまま十分か二十分経ったら、相当冷えるだろうなと思った。
そもそも、十分か二十分もの間、こうしてオフィスから離席していることが、
普段なら考えられないことだった。
どんなに遅くても、どうにかして五分以内に戻ろうと思った。
窓口が混んでないのを祈るしかない。