ドア


「今どこですか?」
「中目黒です。」
「まあ、どちらに行くんですか?」
「帰る途中です。もう電車に乗らないと。」わざとぶっきらぼうに言った。
「そうですか、いいなあ…。」少しの沈黙。何か言いあぐねているような様子。
こちらから話した。「あと三十分もすれば着くので、また連絡しますよ。」
「そうですか。わかりました。ではまた後ほど。」
「はい。すいません。また後で。」電話を切った。


発車間際の電車に飛び乗った。
ドアが閉まったので、その脇に立った。すぐにうとうとし始めた。
はっと気付いたら、もう日比谷駅に着いていた。
慌てて荷物を持ち直して、どたばたと電車を降りた。


店はほとんど暇だったが、たまに忙しかった。
店のドアを開けて「おはようございます」と挨拶する。
木の床を踏むたびに、ぎしっと軋む音がする。


「おはよう!」と言う。


「暇だー…」
と言うか、
「今日も暇だよ!!」
と言うか、
「ちょっとトイレ行ってきます!」
と言って、走って出て行ってしまうか。


「あー、今日も暇だよ!!」
と吐き捨てるように言った。


うんうんと頷く。


バイトの身分では、店は暇な方が嬉しい。
タバコを吸ってレコードを聴いてぼーっとしてれば良いのだ。
あるいは常連客がカウンターに来て、それでだらだら喋って時間が過ぎていけばそれもまた良かった。


玉ねぎをみじん切りにした。窓の外が夜になった。看板の電気の光が庇の裏を照らした。


寒くなったね、という声が聞こえた。