描く


久々に、少し絵を描く。何年も前のスケッチブックに、以前絵の具で描いたときの染みが、次ページの一部に移ってしまっていたので、そこから色と形を描き加えていく。ただしその染みはきっかけに過ぎず、それを絵の主題とか中心にしないように心がけつつ、画面内をあまり秩序立てないまま、全体を見つつ、ただ運動的にあちらこちらへ拡散的に手を入れていくという、ほぼその手順遵守を目的化させて、ずっと三時間近く描いていた。とはいえ描く場合は、どうしても完成に向けた活動ということになってしまう。手を動かしていると実感としてわかるが、あるところまで来ると、突如として楽になりたくなる。楽になりたいというのは、簡単な結論に落とし込みたくなるということで、絵で云うところの簡単な結論とは、安易な美的愉悦に浸りたいということで、手から伝わってくる筆触の心地よさと目で見たときのトーンのうつくしさ、定着の程よさ、正確な均一さ、のようなものを目で確かめて安心したいということである。それらはつまらないと理屈ではわかっていても、身体的な緊張を保ちながら神経や筋肉を一定状態下に維持しつつ運動しながら苦痛を我慢した状態を続けていると、子供みたいに簡単でわかりやすく甘いお菓子をほしくなるのと同じで、なさけないほど浅い部分に満足したい自分を発見してしまって情けなくなる。まあ、こんなもんかと思った時点でやめた。後半にきて薄々わかっていたが、ほとんど見るべき部分のないつまらない画面があるだけだった。