来訪


あらかじめある程度、予想はしていたが、やはりでかい家だった。奥さんに開けてもらって門の内側に入って、庭の敷石の上を歩いて、玄関の前に立つ。一見なんでもないふつうの扉に見えて、開けようとしてもどこをどう引けば良いのかわからない。お金持ちの家で、いかにも昔の家だ。何とか記念館とか、昔の何とか住居跡みたいな建物を見学するのと同じような、いや、その類よりもっと、興味深いし身がすくむ思いだ。まったく縁のない他人の家に侵入できる機会は、小学生とか中学生のとき友人の家に行き来していたような時期を終えてしまうと、なかなかそう滅多にないものだ。三和土に立って、上り框に鞄を置かせてもらい、持参した書類を見てもらう。しばらくお待ちくださいね、今あの、鳴ってるのを止めて来ますね、と言って奥へ消える。夜中に門が開いたので、家の奥で小さく警報音が鳴っているのだ。1人で妙に広い玄関口から奥の廊下をぼーっと見ていると、その一帯を照らす灯りの照度が、暗くなり明るくなりまた暗くなりと、ゆっくりと変化しているのに気付く。しばらく待って音が止んで、書類の指定箇所に記入してもらい、用事が済んで、おいとましようとしたら、坊や、ちょっと待ちなさい、これ持っていって、お家の皆さんに差し上げて頂戴、皆でめしあがってね、などと言って、お菓子や果物の入った風呂敷をたくさん背負わされる…などという事はさすがになかった。