犬ヶ島


TOHOシネマズシャンテでウェス・アンダーソン「犬ヶ島」を観る。かつてのように息を呑む思いでウェス・アンダーソンの映画を食い入るようにみるのは、もはや難しいと感じてしまうところがあり、ある種の既知感と安心感の上で洗練と職人技の精緻を感心しながらゆっくり楽しむみたいな感じではあったが、しかしその意味でやはりこれは大変な良作であった。細部までびっしりと作りこまれたフェイクな「日本」意匠もすごいけれども、何よりも各キャラクターたちに演出付けされた仕草、表情、口や目の表現、といった部分要素の描写がすばらしく、Mr.Foxよりもかなり王道的な娯楽映画に近くて、物語もすごく典型的だが、男女(犬)の逢瀬のシーンとか(スカーレット・ヨハンソン素晴らしい!)、主人とノラ犬との最初は気まずかった距離感がじょじょに縮まって最後は忠誠・忠義の関係が(兄からの継承によって)成り立つとか、回想の挟み方とか、全てがじつにいい感じ。


あと不思議と印象的だったのは、犬や少年の顔や、その他たくさん出てくる、傷というか怪我のダメージ表現。そもそも犬ヶ島がゴミの島でおびただしいゴミ類を背景にした話ではあるので、世界そのものが凄くハードにダメージを負ったテイストなのだが、とくに少年アタリの顔など痛々しさが強烈で、そもそもこの子は小型飛行機でまともに着陸しないし、生まれてから今までにおいて二度も激しく生命に関わるくらいの重傷を負うし、頭部に刺さった金属とか腎臓移植とか、なにしろ負傷・故障の気配が濃厚に漂っていて、その雰囲気と心優しい正義感な部分とのマッチングが何とも絶妙な感じだった。