年内出社最終日、業務後はいつもの人たちと納会、いつもの人たちと言っても、年末とか、多くても年に数回呑むだけで、ほぼそのためだけの交友関係という感じだが、それがすでに十年近く続いているのだからそれはそれですごい。しかし年末のこの時期は、どの店も忙しなくて殺気立つかのような雰囲気で、あたふたした年の瀬の雰囲気を僕は何となく好きじゃなくて、こと外食に関しては一刻も早く一月になってくれないかと毎年のように思う。がら空きの電車とか殆ど人のいない広い路とかが好きだ。

なんとなく保坂和志「アウトブリード」を読み返していた。そこに出てくる俳句の話(96頁)。

未明から五月五日の空である 吉本壮迅

餅食うてゐるふるさとは横濱市

という句がある。これはどう読むのがいいのだろうか。
区切らずに読めば、横浜に帰ってきたことになるだろうけれど、「餅食うている/ふるさとは横濱市」と区切れば、別の場所でふるさとを思っている可能性がでてくる。

 僕ははじめ、つい、「それはやっぱり、切った方が深みがあるよな」と思ったけれど、そうとばかりは言いきれない。「未明から五月五日の空である」の真っ直ぐさを思えば、この人は"たんに(傍点)"横浜で餅を食っている。
 読むときのこっちの気分が、弱いと切りたくなり、強いと切らない。そういう句なんじゃないかと思う。