花見

せっかく誘ってもらったのに、仕事から抜けられなくて、約束の時間から大幅に遅刻しそうだと、先方に迷惑かけるわけにもいかないと思って、それなりにやきもきするし、半ばあきらめの気持ちにもなるが、まあいずれにせよこんなときに、そもそも人との約束っていうもの自体が、面倒くさいものだなと、やっぱり飲みに行くなら、ふいに思い立って、ふらりと適当に、好きなものだけを好きな時間だけ、そんなのが一番、気楽でいいなあと思ったりもする。だからそんな思いをした直後には、もう金輪際週末は誰との約束も取りかわさないで、自分だけの時間にしようなどと、大げさなことを考えたりしがちだ。そんな思いでやっとのことで会社を出ても、だいたい横浜から中目黒まで、急行でも三十分近くかかるのだけど、三十分という、この中途半端に長い移動時間がいったい何なのかと、ほとんど呆然とするくらいに、唐突に浮き上がって甚だ収まりの悪い時間を電車内で過ごすしかない。これから、待ち合わせた人たちと合流して、酒を飲む、そのために向かっている、にしても、今こうして大人しく電車に揺られて目的地を目指してる有様が、自らを、ほとんど阿呆の子ではないかと疑わしく感じずにはいられない、そんなひとときになる。おとなしく屠殺場へ引かれていく家畜のようだとすら思う。約束だから行くけど、そうじゃなかったら今時点で既に狂人の道程だなと思う。そんなに嫌なら、行かなきゃいいじゃない、いや、そうではない、別に嫌じゃないのだ。でもそれを嫌じゃないと思ってる自分が、すでにやや狂ってるような気もするのだ。

目黒川沿いの桜はまだ序の序な段階で、お店は二階の窓際のすばらしいロケーションだったけど、残念ながら花弁はほとんど目視できなかった。とはいえこうして窓を開けっ放しにして、微風を肌に感じながら席に座って杯を傾けていられるだけで、たいへん快適だ。結局、楽しいじゃないか、来てよかった。だから言っただろうに、もちろん最初からわかっていた。