セミ

バスを待っていると、上から落ちてきたみたいな様子で、セミが目の前の時刻表に止まった。力なく、薄い鉄板の縁を探るように動いて、やがて再び羽根を広げて飛び立ったかと思うと、彷徨うようにあたりを周遊したのち、目の先にある街路樹の幹に止まった。今年はセミの鳴き声が少ない。例年もっととんでもない大音響につつまれたような鳴き声を聞くはずが、今年はさほどでもない。そもそも緑道脇に等間隔で植え込みされてる樹木の背の低い幹に、毎年この時期になるとおびただしい数の抜け殻が貼りついてるのだが、今年はそんな状態もとくにみとめられない。たぶん成虫になれた個体数が極端に少ないのではと思う。そして、早い段階で、まだろくに飛びも鳴きももしないうちにアスファルト路面や階段踊り場などにばらばらと落下したまま瀕死かすでにこときれてるやつが、やけに目につく感じだ。どうも今年の夏の勝手の違いに慣れてないというか、行き場を見つけられてない連中が多いのではないかという気がする。夏に上手く自分をフィットさせられてないというか、今年の夏そのものがまだその場に上手くフィットしてない、それで自分らの振る舞いの寄って立つ基盤がどうにも頼りなくて、そのことに戸惑っているようにも見える。