じっとりと地味に、しかし確実にすり寄ってくる湿気、外に響く雨音、狭い玄関の内側に無理やり広げて干されている濡れた傘、乾燥をうながすように立てかけられた靴、シャワーを浴びて身体を拭いて、着替えて戻って来たときの、部屋の空気と洗ったばかりの肌が触れ合う感じ、ドライヤーを揺すってる人がたてるやかましい音、枝豆を茹でて、鍋を傾けて捨てたお湯が、シンクの底から濛々とたてる湯気、グラスにビールをかたむけて、明らかに割合のおかしい泡と液体の配分を是正するためにじっと待っているときに、大相撲の中継が始まっているのを知って、いつから?と聞くと、今日が初日みたいとの答えが返ってきて、幕下の取り組みを映すテレビ画面のどこか緩慢とした雰囲気のなか、窓の外は夕暮れを前にして、しかし雨はなおも降りやまず、鳥たちの鳴き声も聞こえぬまま、このあとしだいに夜が満ちてくるのを感じているとき、もう何度もくりかえされたはずの、もはや伝統的と呼びたいほどの、夏が今年もやってきたのだということを、その気配を、やはりいつものように気づかぬうちに受け入れている。