鳩よ

駅前の鳩たちが、如何にも忌々しい。あいつらの姿にはほとほとイラつく。身の程を知らぬということの、あれほどの醜態はない。けじめもわきまえもなく、ただ怠惰に、なすがままに、夢も野心も欲望も大志もなく、何十羽も群れて、駅前の公園の広場にたむろするばかり。しかもその場の地べたに、直接べったりと座って、恥も外聞もなく、勝手気ままにおのおの佇んでいるだけなのだ。鳩が地べたに体を休めている姿を、言葉でなんと表現したらいいのか。犬や猫なら、地べたに腰を落としていたとか、寝そべっていたとか、言いようがあるだろうけど、鳩がその場に丸く膨らんだような身体でうずくまっているのを、なんと表現するのが適切なのか。表現しなくても、今のでもういいか。わかるか。おまえら何もそんなところに直接座らなくてもいいだろうと言いたいような姿で、何十羽も点在しているのだ。たかが鳩風情に目くじらを立てるのも大人げないのは承知であるが、なんとなくだらしないというか、見た目によろしくない、横着な感じが漂っていて、美観上も風紀衛生上も、なんとなく気になるのだ。

とにかく駅前の人目に付きやすい場所の、その場に丸くなって動かない鳩たちが、何十羽もたむろしている、その一帯に対して、当初から感じていた反感に軽い意地悪心を加えて、連中が占領しているあたり一帯にわざとずかずか入り込んで、彼らを蹴散らす勢いでその場を通り過ぎてやろうと思った。進行方向を変えず、まっすぐに彼らの地帯へ向かった。躊躇ないスピードでその場を歩きすぎてやったら、、そうすればきっとあいつらはあわてふためいて、臆病さ全開でどいつもこいつもいっせいに、バタバタと羽根を動かして数メートル上の電柱か建物の屋根上に避難して、その場は瞬時できれいさっぱりもぬけの殻となるはずだ。そうなるしかないはずで、そうなればじつにさっぱりする。お前ら調子にのるな、甘く見るなよとの思いで、お前らどけどけと云わんばかりに猛然と歩を進めた。

ところが鳩はまるで動じないのだ。驚くべきことに、鳩たちは僕が足音高く迫りくるのを視線だけで確認すると、その進行方向に重なると思われる数羽だけが、さも億劫そうに、ほとんど態勢を変えずに数歩だけ移動した。まるで畳に寝そべって漫画を読んでる子供がお母さんの掃除機を避けるために寝たままの姿勢で場を動くかのような態度でだ。僕が足早に通り過ぎた進路を億劫そうにちょっとだけ移動したのが数羽で、あとは何もかわらず軍勢の動静は不変である。憮然とした思いで僕は後ろを振り返ると、後から見ていた妻が喜んで大笑いしているばかりだ。