髪を切るのでお店に向かって歩いてる途中、植え込みの茂みの中でガサガサと音がして、何かと思ったらいきなり一羽のカラスが飛び出してきて、トコトコトコと軽快なステップで地面を歩き、何やら得体の知れないものを嘴でしっかりと咥え込んでいるので何かと思ってよくよく目をこらしたら、なんと生きたスズメをくわえているではないか。嘴の力に抑え込まれて、小さな身体がひしゃげたボールのように歪んで丸められてしまって、まだ死に至ってはいないスズメの断末魔のようなカン高い鳴き声が聴こえて、その凄惨に思わず立ちすくんでしまう。自転車で通りかかった高校生が金縛り状態で固まってる僕の視線の先を見て、そのカラスに気付いてやはりぎょっとしたらしく自転車を止めたままその場を動けなくなる。カラスはことも無げに身体を揺らし首を左右に傾けつつ、やがてばさっと巨大な羽を広げて地面から飛び立ち、近くの木の高い枝に飛び移って、枝葉の影で何をしているのか見えないけれども捕獲した獲物に最期のとどめをさそうとしているのか頭上でガサガサと不穏にうごめいている。しばらくショックから抜けきれず、その後、20分くらいは精神的にへこんだ。生き物の捕食行為、人間同士の戦闘行為、いずれも肉体に容赦なく力が加わって死が訪れる、その物質性、無常なり、そのときカラスが振り向いて囁いた。汝らに告ぐ、身を殺して魂を殺せぬ者を畏れるな。