梱包の内側

路面がぬれていた。外に出るまで雨が降っていたことに気付かなかった。昨日よりは寒くなかった。

外壁のメンテナンスのため、住んでいる集合住宅の周囲に先々週くらいからまんべんなく覆いがかけられている。外から見ると、建物全体がまるで美術家クリストの梱包作品みたいな状態になっている。それはそれで面白い眺めではあるのだが、そういう状態の中で暮らしていると、まず朝起きて、外が晴れてるのか曇ってるのかは、かろうじてわかるとしても、雨が降ってるのか降ってないか、もしかして雪になってないかなど、そういう細かいところが、どれほど目を凝らしても、あの網網のフェンス越しからでは見えないのだ。完全に建物の外に出ないと、その日の天候がわからないのは、地味に不便である。

そしてその覆いの内側を、時折作業者が動き回る。カーテン越しのバルコニーをいきなり人影が横切り、すぐ近くで人の声がぼそぼそと聞こえる。梱包の内側で自分たちの住まう場所と外との境界線が二重のブレをもって曖昧にぼやけてる感じだ。