13℃

その夜の気温13℃は、とても快適だった。暗闇を歩く自分の身体が、適度に冷えた一定の質量をもつ空気の厚みを壊しながら突き抜けていく感じがする。身体の内側から生まれてくる熱は、外皮ですぐに冷却されて発汗にはいたらない。発熱と冷却のバランスが絶妙なのだ。こうして、つつがなく運動が継続可能なコンディションであるというとき、自分というメカニズムに意志があり、好悪の感覚があるのが不思議に思われる。これほど内側と外側に齟齬がない状態だと、むしろそんなものが不必要に感じられるのだ。本来ならただの無機物として、ある法則のもとに流れているだけで良いはずなのに、その只中で何が何を知覚しているのか、それが全体に対して据わりの悪い余分として、袖の先が釘に引っかかってぶら下がったコートが風にはためき、いつまでも揺れ動いているかのように思われるのだ。