山手線のドアが開くや否や、猛然と走り出して、JR西日暮里駅ホーム階段を駆け下りて、さらに千代田線乗り換え口までの長いエスカレーターも一挙に駆け下りて、さらに速度を落とさずに下り方面ホームに続く階段までも駆け下りる。

あたかもダウンヒルにアタックするかのように、この一連の下り階段コースを全力疾走する人。全部で何十メートルあるのかわからないけど、はるか地下まで、かなりの高低差をおそらく三十秒ほどで駆け下りる。駆け下りるというよりは、滑り落ちるような速度でだ。

もし酒に酔った状態で走ったら危ないだろう。一歩間違えれば大事故にもなりかねない。それよりあの駆け下り方で、あのまま六十歳になっても七十歳になっても、ああして走れるものだろうか。すっかり耄碌して、足腰がおぼつかなくなっても、なぜか西日暮里の下り階段だけは、昔と変わらず駆け下りてしまえる、千代田線ホームを目指すときだけ、下半身の動きがよみがえる、そんなことがあるものだろうか。