夜は涼しい、肌寒いくらいだ。雨が多い。とつぜん降ってくる。夜の明かりが、ぼやけて細かく分かれて波打ち、アスファルトやそこらの何かが黒光りをはじめる。軒下に人が並ぶその前を、小走りの人と大きな傘の二人連れが身を除けつつ行き交う。

折り畳み傘の水気をしっかりと払いたくて、いつまでもしつこくブルブルと柄をもって回転させてる。この傘も買ったばかりの頃はもっと撥水してくれたものだけど、今やすっかり水に浸み込まれて、湿った布のようにうなだれてる。やけに多い今年の雨を、ずいぶんたくさん吸い込んで働いてきた傘だ。

階段を上がって駅のホームに上ると、電車を待つ人々が雨の打つ音の大きさに驚いてあたりを見回してる。反響が何重にも重なって、まるで何か計り知れず巨大な物体がその枠内に皆を包み込もうとするみたいな音に、え?と訝し気な態度で様子を伺ってる。