山手線のどの駅を主に利用するかと言えば、僕はこれまでの数十年間のほとんどが池袋から上野の区間である(通勤で西日暮里から横浜までnの区間を十年以上利用しているが、山手線圏内の話なので、ひとまずそれはおく)。

だから自分にとっての山手線のイメージは、きわめて地味で街の華やかさを欠いた一帯に偏っている。鶯谷とか、西日暮里とか、田端とか、このあたりの地味駅ラインナップは、独特の雰囲気があって味わい深いとは言える。

が、そのあたりの駅には、実際さほど用事もないし、きのう思ったのだけど、もしかすると僕は田端駅に降りたのが、生まれてはじめてかもしれない。それにしてもなんて地味な駅だろうか、これが山手線沿線と言えるのかと驚いた。田端駅はじつは北改札口がずいぶん小奇麗なのだが、我々が降り立ったのは反対側だったので、後で北口を見たら、さっきと同じ駅とは思えなかった。

たとえば鶯谷のホテルが立ち並ぶ景色は、まだ学生だった三十年以上前から見ていた。でもあのホテル群が、今とあの当時で同じなわけがない、名前も建物も、きっとまるで変わっているのだと思う。しかし電車の中から眺めるかぎり、三十年前と今とで、何も変わってないとしか思えない。

田端駅は谷底にある。線路や駅、あるいは車庫や関連施設を、上から一挙に見下ろすことが出来る。駅馬車みたいに、もし山手線が襲撃されたらこの地形は不利だろう。