ある人の幼少時の話。七五三だか端午の節句だかを祝うために祖父が長野から上京した。お土産に、生きた鯉をぶら下げてきたのだそうだ。
今から三十年か四十年くらい前の話である。長野から、電車に乗って、何時間かけてか、その間鯉は口に濡れた布か何かを咥えさせられたままだったが、家に着いても依然として元気にうごめいていたのだと言う。
それを家で、鯉こくにしたのか他の料理か知らないけど、うごめいていた鯉がやがて料理され食卓に並んだのを見て、彼は子供心に壮絶な何かを感じたとのこと。鯉と言われたら、まずその思い出が今でもよみがえってくると言う。
僕はそれを聞いて、なんていい話なのか、素晴らしい、感動したと応える。鯉は食べたことがない。食べてみたいと思う。ええ?と思わず目をむくような、思わずゾーッとさせられそうな、巨大で泥塗れで匂いも強い、激しい力で抵抗する固い身に、包丁を刺し込んで、ざっと洗った身の調理されたのを、ぜひ体験してみたい。(いつか、テニスもするかね)