フィッシュマンズについて(Vol.1)


男達の別れ 98.12.28@赤坂BLITZ [DVD]


はじめてフィッシュマンズを聴いたのは「宇宙・日本・世田谷」発売時だ。


でも当時はほとんど興味を持てなかった。なので、フィッシュマンズというグループの事は忘れてた。その後、佐藤伸治が死んだときも、個人的に興味の対象では無かった。


妻が、元々フィッシュマンズを好きで、家にアルバムが揃ってたんで、去年くらいからフィッシュマンズが再び話題になる事が多くなったのをきっかけに、改めて聴きなおして、そしたら死ぬほどハマった。


そんなフィッシュマンズ歴ちょっとで、文章書くというのは、惧れと慎ましさが足りなさ過ぎるんだけれども、短い期間だけれどもかなり一生懸命聴いたので、どうか許して下さい。。


佐藤伸治は、歌の世界でも、ステージでも、ただひたすら内向的であろうとする姿勢において徹底してると思う。ロックミュージックで、ボーカルという役割を、あのように成し遂げた人間は珍しいだろう。男性的な「シャウト」ではなく、まるで踏み潰される怪鳥ともいうべき「キィヤアーーー!!!」という悲鳴をあげ、主張とかメッセージなどという概念に唾するかのような、幼児退行そのものと思われるような、舌足らずな節回しや声色で歌う・・・


「男たちの別れ」DVDをはじめて観たとき、あまりの衝撃に途中で観るのをやめた。まあ、すぐ気を取り直して最後まで観たが、結構きつかった。何がって…あのステージ上で衰弱しきっているボーカリストを見てるのが。である。


そのDVDを観てるときは、このボーカリストが、映像収録時から3ヶ月足らずで亡くなったということを知らなかった。だからそれを知ったときは「こんなビデオを普通に売って良いの?」と思わず言った。


あれほど「へこんでいる」人間の映像というのは珍しい。というか、あれほど精神的にダウン状態でありながら、歌を歌っているという…拷問に近い状況を耐えている人というのは…。


もちろん、あのように落ち込んでいる事自体、とても自己憐憫的に見えなくもない。しかし、なぜそこまで一直線に「がっかり」のレベルまで無防備に落ちてしまうのか…。やっぱりああいうのは見ててきつい。ああいう精神状態になる事は、未熟さの証拠。と口で言うのはとても容易い。多分ああいう精神状態が、いろんな苦痛の中で最もキツイはずである。


MCではこみ上げるものを抑え、目を涙で潤ませながら平静を装っている。俯き、圧倒的な音響下で何かを考えている。僕が個人的に好きな曲「スマイリン・デイズ、サマー・ホリデイ」ではほんの一瞬だけ元気さを取り戻したように見え、異様な、くにゃくにゃしたタコ踊り気味のステップで、恍惚の顔も見える。最後の「ロング・シーズン」は、ほとんど正座したくなるような緊張の40分間である。ボーカリストから発される、殺意めいたものを感じながらの…


全体的にヤバサに満ちてる気がする。「どうしても佐藤伸治の死と結びつけて観てしまう」という話がよく囁かれる映像だが、僕に言わせれば、ほとんどナマの死が目に見えるようなステージだと思った。正直あんまり何回も見たいとも思わない。音だけ聴くときも、佐藤のMCだけは怖くてとばしている。


フィッシュマンズについて(Vol.2) に続く…