「ロック」の準備を!


クリームの素晴らしき世界


音圧は大事です。音圧は人を救う…ところで音圧と言えばクリームである。


しかしこのバンドは、歴史的に超・重要って事になってるけど、実際はあんまり聴かれてないっつーか、実は聴いてもいまいちなんだけど、そう言い出しずらい空気があるっつーか…。って僕だけ?


まあでも、今聴いても相当面白い(けどまだ可能性レベルの)要素がいっぱいあって、スタジオ曲の完成度はほんと高いし、I Feel Freeとか、Strange Blueなんて、今聴くと余計に、死ぬほどカッコ良く感じる。古いブルース曲であるI'm So GladやCrossroadsのアレンジも、相当な斬新さだと思う。このリズムならギターはこう。とかベースはこう。とかいう決まりが全く無くて、悪く言えばなんだこれ!?と言いたい様なモノもあるが、やはり大胆で過激な魅力に満ちている。あとは、あの長時間にわたって即興演奏するライブ演奏をどう捉えるかが、問題じゃないでしょうか??


クリームのライブ演奏の実況録音はたくさん残っている。残されたオフィシャルアルバムに相当量ライブ演奏が収録されているんだから当たり前だが、はっきり言ってしまえばクリームのライブ演奏というのは、良いとか悪いとか言える類のモノではなく、もうただ「音の壁を厚くする」だけに終始していると思う。それ以外の事もやろうとしてるけど、成功してるものは非常に少ないと思う。(そういうのが、平気でボツになってないというのがすごいと思う。GoodbyeのI'm So Gladライブとか、あれが一曲目ってありえなくない?)


クリームのサウンドを決定付けるのが、クラプトンの「ウーマン・トーン」である事はよく知られている。ファズをメいっぱい効かせて歪みきった上に、ギターについてるトレブルコントロールをべったり下げて、高中域の音の伸びを完全に潰した、まあ意地悪な言い方だが、凶暴なだけで意味も表情も剥ぎ取られたのっぺらぼうな音である。ここまで音(というか単なる6弦電化発音機)の独自性が強いと、もう人間が弾いても犬が弾いても結果はほぼ同じとなる。とはさすがに言い過ぎだが、そのようなセッティングでクリームは演奏を行う。もちろん稀代のテクニシャン揃いなので、そこそこ手数の多いプレイが行われるのだが、結果はどれも「ドバーーーー」っとしたギターベースドラム音の飽くなき放出。という事態になる。まあ、このドバー!っとした音の壁が、その後のヘビーロックサウンドの礎になっていく訳で、やっぱり歴史的に重要っつー話になる訳ですが…


ここで3人が試しているのは、とにかく技量に裏打ちされた多様さだけをぶつけ合ったらどうか?というぐらいのモノであり、なんかすごい瞬間があっても、多分に偶然の産物感が強いっていうか。確かに「素晴らしき世界」収録のCrossroadsもSpoonfulも素晴らしい事は間違いない。Crossroadsはクラプトン2度目のギターソロの凝縮・結晶感が素晴らしいし、ジンジャーベイカーの最初から最後まで無茶苦茶・変なドラムも捨てがたい。Spoonfulにおいては、演奏の盛り上がりがピークに達して、その後、異様な空虚さが広がっていくような後半の展開とか、筆舌に尽くしがたい魅力がある事は認める。


けど他の、まあ前述したI'm So Gladもそうだし、例えばLive Cream vol2収録のStepping Outなんて、クラプトンとか露骨に着地点を探してるような素振りを見せすぎな感じがあり、結構、本人の小心者な所を露呈してるようで気分が情けなくなる。クラプトンという人は、すごい優秀なミュージシャン/ビジネスマンであるが、ちょっろと誰かのステージに立ってなんかをジャムったりする時は確かに激しく冴えたプレイを見せることがあり、その意味でロックギタリストではなくて(ブルースギタリストでも全然なくて)、まあフュージョン系ミュージシャンなんかの系譜とかで捉えた方が良い人なんだろうと思う。


いずれにせよ、よくこんなバンドが40年前はアレだけ騒がれたものだ(ってリアルタイムで知らないけど)。もちろん当時イギリスを覆っていたブルースインベンショナル&サイケデリックな空気を考慮しなければいけないが、モノによっては、いくらなんでも今や、聴くに堪えない内容も結構あるでしょ。


ただしかし、じゃあ自分はクリームの事がキライなのか?っつたら、実は大好きなんです!散々悪口書きましたが、でも聴きたい!と感じることはすごいある。だって他にないし。こんなバンド(笑)。かなり変。「変」を売り物にしてる凡百を軽く一蹴するはみ出しぶり。ロックにおける「近代」設立の瞬間っつーか、何が出るか判らないヒヤヒヤした感じがたまらんという…。


ライブ録音とか…毎日聴きたいか?っつたら絶対ヤダが(笑)、たまーに猛烈に聴きたくなるのだ。それも、もう一番壊れてるテイクがほしくなる時がある。Live Cream vol1収録のNSUが、自分にとってのクリームベストテイクです。これはいいよ。この醒めた暴力性をもってすれば、MC5に勝てます!


ライヴ・クリーム