「赤い河」


赤い河 [DVD] FRT-124


最悪の状況下でなおも目的地の変更を認めず、ミズーリ州行きに固執するジョン・ウェインは、状況の悪化に士気を落として隊を離れようとする者に対しては、容赦無く発砲し粛清してしまうような、厳しい旅の過程において最後にはほとんど発狂した独裁者のような様相を呈するに至る。


ついに誰も賛同する者が居なくなり、満場一致で、若きモンゴメリー・クリフトにすべての牛と実権が譲渡され目的地の変更が確定する。…固い絆で結ばれていた筈のウォルター・ブレナンにまで見放されてしまい、抵抗の手段も封じ込められ、成り行きを黙って見つめる他ない状況へ追い込まれるのだが、しかしそれでもなお、表情を変えずに周囲を睨み付けている。手塩を掛けて育てたモンゴメリー・クリフトに対して、まともに目を見つめながらジョン・ウェインは云う「いつかお前を、必ず殺してやる。どこまでも追いかけて、必ず殺してやる」…なんか数日前に書いたド・ゴールを微かに思い出す。


結局こういう人間というのは、おそらくほんの少数ながら、どこにでも存在するのかもしれないと思った。完全に勝ち目の無い状況下で、なおも相手に対して、「いつかお前を必ず殺してやる」と本気で告げる事ができるか否か?それを自分自身で信じられるか否か?自分を失くさずに、気を確かにもっていられるのか??…それは必ずできる!という、ジョン・ウェインはその圧倒的な実例として存在している。


ジョン・ウェインを更迭した後のモンゴメリー・クリフトは、その後の旅程でほとんど幽霊を怖がるかのようにジョン・ウェインの幻を恐れる。夜中もおちおち寝ていられない程の強い緊張に苛まれる。しかし、汽車が目の前に現れ、町が現れ、成し遂げつつある事の「成功」が明らかとなって行くにつれ、モンゴメリー・クリフトは事が上手く運び莫大な富と名誉を手にする高揚と、根本的なところから沸き起こってくる恐ろしい不安の渦巻きの中に居るしかなく、その中である種の覚悟を決めてジョン・ウェインがやって来るのを待つしかない、という事にやがて気付くのだろう。それと共に在る事に慣れなければいけないのだと。…映画のラストでは、結局全てがハッピーエンドに終わるのだが、しかしあのラストはきっと最後のサービスとして機能しているのであり(大変幸福な気持ちにさせられる)、誰もが感じているような大きく恐ろしいものが背後から追ってくる不安が、最後は努力次第で必ず解消されるのだという事の証明とか、そういうのではないだろうと思う。


牛がでかい河の流れのように流れていくのがすごい。どやどや暴走するシーンもものすごい。あと汽車もすごい!