写真が写るんです


僕が写真を経験したのは結構昔である。小4のときに写真部に入部していきなりピンホールカメラを作ったり白黒フィルムで撮影〜フィルム現像〜焼付けまでやっていたのだ。フィルム現像は富士フィルム社製の「ダークレス」という、取っ手をくるくる回すような簡易現像キットを使った。あれを思い出すと懐かしくなる。現像室は用務員室の一角を暗幕で遮蔽して、休みの日なんかに行って現像作業したのだ。土門拳とかあのあたりの写真展も皆で観させられたように記憶する。こういうのはどこでもそうなのだろうが、結局担当の先生の趣味に付き合わされたという事なのだろう。


中高校生くらいときは撮影とかはしなかったが、図書室にあるアサヒカメラとかの雑誌の投稿コーナーが好きでしょっちゅう見ていた。どの写真が良いとか悪いとかの判断をするのではなく…というか見てるとどれもすごく良く思えて、概ねうっとりしながら見ていた。そういう写真図版の下部には投稿者の名前と機材が書かれているが、ものすごい高級そうな機材もあれば「写るんです」で撮ったというようなものもあり、結局、単なる「良さ」だけを追っかけるのなら、機材なんか何でも良いのだというのは感じられた。


その後、よく考えたら自分は90年代の結構な時間を写真を利用した作品制作にあてているのだ。しかしそれは写真というか、支持体の上での感光乳剤を酸化させたときの表情を利用する、という方法であって、それは写真を撮る、という事ではないかもしれない。いや「被写体」があったのだから、やはり写真を撮ったのだと思うけど…。しかし結局、焼き付けるべきフィルムがあるか無いか?以上の拘りがなかったとも云える。(紙に感光乳剤を敷いて、そこに焼きつける。現像ムラも定着不足もそのまま晒す。80年代後半の石原友明の仕事の影響が強かったと思う。セルフヌードはやらなかったけど…もちろん大竹伸朗の感光を使った一連の仕事も知っていた。まあ、最初はメイプルソープの写真がもってるものすごい古典的な造形感が好きでああいう強い黒とかに惹かれたのだけど、やってる事は最初からずれてしまって、銀紙や金紙やトレーシングペーパーとか、もっと脆弱な紙を支持体に選んだりして、挙句の果てには支持体たる紙が液に溶けて破れてズルズルになってしまったその状態のまま完成とした。(参考作品)


96年に展示して、会期終了と同時にこれでもう写真やめた!と思ったのは今でもおぼえている。写真って面倒くさいからなぁ。。暗幕貼ったり現像液つくったり、感光乳剤塗って3日くらい干しといて、うっかり光当てちゃったときのショックとか本当に嫌だったしなぁ。。さんざん苦労して、駄目な結果ばかり掴まされる感じとか、本当になんでこんな事やってんだ俺は??とか思ったものだ。そんなツマラナイ事の繰り返しが、結構ジャブのように効いてきて、もうやってられるか!となってしまうのである。やはりまったく自分の思う通りにならない制作を毎日繰り返す事に耐えられなかった訳だから、写真という形式(その扱いの感覚も含めて)が僕という人間と、見事に相性が悪いんだろうなあと思った。…まあ、写真というものに対して、本来はもっと感じるべきなのかもしれない屈託をほぼ感じずに、只なんとなくやっていたという所もある。…あの時期の行為にもし自分にとっての何らかの「意味」を与えるとしたら、これからの自分が何をやるか?でしかない、という感じ。


で上記は、また例に拠って詰まらない昔の思い出話に過ぎないのだが、なんでこんな事を書いたかというとそのきっかけは、このまえ四万温泉に旅行に行ったんですけど、そこに奥四万湖というのがあって、それを「写るんです」で撮影したら、もうびっくりする位キレイな写真が撮れたから嬉しいです!っていう話でした(笑)


それなりの標高がある場所とはいえ、やはりものすごい炎天下で脳が蒸発するような身の危険を感じるほどの暑さであったが、でもやはりあの光線の力をもってすれば、露光された大抵の写真は皆、ある程度美しくなってしまうのではないだろうか?そのくらい豊饒な惜しみない天然の光が降り注いでいて、その中で偶然にでも「写るんです」のシャッターを押せた事の僥倖を感じますよ!



ちなみに、奥四万湖の湖面の青は異様であるが、これは自然の色なのだそうだ。水の成分の中で「青」を反射させる要素がたまたま多いために、こういう冗談みたいな色をしているのだそうです。しかし肉眼で見て、それを撮影するときに「まあ撮っても絶対"この感じ"の写真にはならないだろうなあ」と思いながら撮ったのですが、イトーヨーカドーの中のDPE店で受け取ったら結構びっくりした。こんなに空が湖面に写りこんでいるとは思わなかった。そのかわり、デカサ感は無い。体も意識も包み込んでいくような包容感みたいなのは、キレイに消失した。って写真だから当たり前だけど。


…でも今、こうしてアップの準備をしつつスキャンしてデジタル化したものを見ると、全然大した事無い感じだ。(笑)こんなブログで大げさに騒いで阿呆かとも思うがいや!ほんもののL判プリントのヤツはもっとキレイですよ!(当たり前)…これを今、躍起になってレタッチソフトで頑張って色調補正とかしても良いのだろうけど、それだと多分、全然この話の意味が無いので、このつまらなさをつまらなさのまま、そのまま公開!!