「サーカス五人組」


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成瀬巳喜男1935年の作品をCSにて。音楽というものの高揚感、悲壮感、滑稽さ、物悲しさ…演奏される楽曲がどれも切なく美しい。5人衆の醸しだしてるよるべなき流浪の感じがとても良い。サーカス一座の姉妹も実に良い。こういう寂れた、もの哀しいようなトーンの、サーカスとか楽団(ジンタ)のメランコリックな雰囲気に惹かれる人は少なくないだろう。成瀬は本作以外にも何度と無くチンドン屋を(物語と全く関係なく)登場させているが、土地から土地へと巡るジプシーのようなツアーにあけくれるバンドのような、定住する事なき流浪の人々をおそらく成瀬は嫌いではないのだろう、だからあれほど各作品の路上でチープなチンドンを行進させるのだろうと思わせる。彼らは大抵、常に場違いで、周りから胡散臭げに見られ、手持ち無沙汰な時間を過ごし、必要とされているのかされていないのか判断のつかない、その宙吊りな領域だけに旅するという事を宿命付けられているような人々である。


実際「ステージ」というものとかそこで繰り広げられている芸事というものをカメラに収めるというのを、映画はいったいどれほどたくさん試みてきたのか?…それを映画史的に語れる力は僕にはないのだけど、たとえば溝口が捉える物語中の歌舞伎や能は時間もたっぷりと収められてその印象深さは素晴らしいものだし、スコセッシが捉えるロックミュージックのステージもまた企みに満ちていて見応えのあるものだ。しかし本作での、たとえば舞台袖からのカメラで、真横からステージ上の出来事が覗かれるように捉えられる感じも、もちろんそんなのはよくあるパターンだけど、やはりなかなか素晴らしいものだ。ステージに出て行って絡み合いつつ踊る姉妹の可憐さは何かうたれるものがある。まあ1935年の出来事だという事実が、その思いに拍車を掛けてるところもあるが…総じて、世間では地味な評価が多数だろうと思われる本作だが、僕はかなり好き。悪いところがあるのかよくわからない。とても楽しんだ。