美文


暑くなりそうな朝。


開高健の文学世界 交錯するオーウェルの影」(吉岡栄一)を読む。開高健作品からたくさん引用されていて、それらを読んでいるだけで楽しい。引用された各作品から、数行〜十数行くらいの分量で次から次へと読むくらいが、とても丁度いい。開高健の美文。美文というか、たしかに豪華で過剰ではあるが、何が魅力かというと、対象を捉える正確さ+スピード感、とか。たしかに手数は、少なくないけれども、対象に投げられた一つ一つが、きちんと役割を担っていて無駄がないので、プロ職人の操作・制御の的確さを見ているような喜びに近いし、すごく上質なポップミュージックのベスト盤を聴いているような満足感にも近い。人によっては、こんな大げさなの臭くて耐えられないとか、美文的なものには興味ないとか、いう人もいるだろう。そういうモノに心惹かれるというのは、散文というもの本来の力をすくい取れない脆弱な感覚しかもたないということじゃないの?とも、言えるのかもしれないが…。たしかに文というのは、もっと貧相で機能剥きだしのままでまったく構わないのだ、むしろそうじゃないと、肝心なときにきちんと闘えないのだ、とは僕も思うのだが…。


夕食後に観たDVDはノア・バームバックイカとクジラ」、話はわりと救いがないのに暗鬱にならないのは、ぱっぱした良いテンポで話が展開するからか。子役の二人が不思議にいい感じだからか。青柳信雄「四つの結婚」。山田五十鈴が観られて嬉しいな。成瀬「朝の並木道」。千葉早智子が綺麗だな。しかしこの女優のその後の人生、昭和そのもの。