「銀座化粧」


銀座化粧 [DVD] COS-029


DVDにて。1000円で売ってるのを買ってあったのだが、どうも最近田中絹代の出てる映画ばかり観てるような気がして、やや飽き気味というか新鮮さに欠ける気がしたためしばらく観ないで置いてあったのだが、とりあえず昨晩観た。何度も観た同じ女優でも、やはり別の作品の登場人物として観てると(いかにある程度パターンが推定できるとはいえ)さすがに幾つかのショットで「お!こういう顔は観たこと無い。」とか「この感じははじめて観た」とか思える部分があるものだ。それが凄い女優という事なのか、はたまた照明や撮影の腕なのか…。


成瀬巳喜男のいわゆる水商売物系に位置する感じであるが、冒頭で田中絹代の息子の男の子が銀座のあちこちを走り回って、一人ぼっちのままかなりの自由度でけっこう遠いところまで走り去っていくようにも思える始まり方で、何か不思議な新鮮さを感じる。その後も、出てくる登場人物がわりと銀座を背景にスタコラ歩くシーンが多い(ロケ撮影の割合が多く感じる?)し、田中の勤め先であるバー店内の様子や客前で演奏させてくれと頼む流しの楽隊とか、浪々と客前で唄う少女とかの芸人達の演奏風景なんかもかなりしっかりと映画の中に組み込まれていたり、バーの客がホステスに囲まれて気分良く下手な長唄を延々と聞かせるところなども、コメディ的に笑わせようとしてるのと唄っている時間をあれだけの時間捉えてる事自体の新鮮さを両方感じたり、友人の女給から頼まれた田中が、上京してきた堀雄二に銀座を案内してあげるはめになったときも銀座の各箇所が比較的丁寧に捉えられるのだが、そういう街のスナップショット的なものが映画中に織り挟まれるというのも新鮮で、…総じて男女とか人間同士の心の揺れ動きだけをクローズアップさせる方向とは本作はおもむきがやや異なるようで、いくつかの別要素がそのまま混在してる感じがする。


しかし田中絹代と友人の花井蘭子や香川京子とのやり取りはまさにいつもの成瀬的神経で演出されていて、女給同士が向かい合ってお互いタバコに火をつけ溜息をつきつつ嬉しさも哀しさでもない心もちのまま相手を見つめるでもなく視線をそらすでもなく何事かを語り合うシーンが何度か出てくるのだが、このあたりはやはり、良い。(…というか本作では「最良」の一歩手前という感じなのだが…やはりどうも田中絹代がタバコを吸いながらホステス稼業のやつれを演じる所に微妙にしっくり来ないものを感じてるのかもしれないが…)…しかし淡く立ち昇ってくる新たな期待→息子迷子→どんでん返し→あーぁやっぱりいつもの現実だった…という終盤の展開も常道ながらなかなか引き込まれるものがある。香川京子は終盤がすごく良い。生きるなんていうのは所詮「気分」の問題なのだ、楽しい事でウキウキしてればそれで儲けモノだし、失望が訪れたらまた同じ場所に戻るだけで、そういう成瀬的円環をとぼとぼ歩かされる最後の田中絹代も良い。