今日の終りの始まり


連休をひたすらダラダラと過ごす。東側の窓から午前中特有の透明度の高い新鮮な日差しが部屋に降り注いでいるのだが、あえてその爽やかさに叛くかのように、いきなりワインなどを冷蔵庫から出してきて呑みつつ、真タコをぶつ切りにしてガーリックの薄切りと唐辛子を浸したオリーブオイルに漬けて黒胡椒と塩を掛けたヤツを一晩冷蔵庫に寝かせたヤツを出してきて、マカダミアナッツとアーモンドを併せて小瓶に入れてあるヤツも出してきて、その味わいにおいて他の追随を許さない圧倒的なクオリティを誇るグリコのアーモンドプレミオほろにがビターも当然出してきて、スモークチーズとそれを切るためのナイフも出してきて、生食用の牡蠣は絡めるための青葱を刻むのが面倒だし紅葉おろしも残り少ないし消費期限が明日までだからとりあえずまだいいやと思い、取り急ぎそれだけを並べて、あとは借りてきた本や散らかってる雑誌やその他を適当に読み散らかしている。読んで面白くも悲しくもなく、あーあー云ってる。


普段は、毎日会社行って、働いて、帰ってくるのだが、そういう生活だと、ウェークエンドがかけがえのないものに思えるし、ほんとだったら、せっかくの休日の時間を自分本来の目的のために、最大限有効に、一種一瞬をかみ締めるように大切に使いたいと、切に思うのだけれど、いざ休日になれば、そんな思いにこれ見よがしに背を向け、前日までの自分をあざ笑いながら、徹底して何もしない。ずっと家でごろごろ。グラスを口に運ぶ。ぼりぼりと背中やケツを掻く。ティッシュペーパーの箱を踏んづける。本を枕にしてうたた寝する。その態度そのものすべてで、ウィークデイの、昨日までの自分に唾を吐きかけてやるんだ!何もしない事が、その事だけが、僕にできる唯一の復讐だよ、と、誰に云うでもなく呟いてみる。…などという気合の入った思いなども別になくて、只ダラダラと時間が過ぎ去るのを見送る。そうしてると、こちらの思ったとおりに、願ったとおりに、願ったり適ったりで、何事も無く午後に入って、日が翳り始めて、微妙に気温が下がってきて、驚くほど速やかに時計の針が夜へと向かって傾いており、ああこれで今日も終わりだなあと思う。休日の終わりは緩慢に訪れる。一日の後半をたっぷり使ってゆっくりと終わり始めるので、その切ない不安をずっと抱えたまま、一日がゆっくりと確実に夕方を迎えて夜を迎える事に、ひたすら耐えるしかない。