立ち話

休日の夜は遅くまで起きていることが多い。今日もそうだった。自分の部屋を出て、なるべく物音を立てないようにして、冷蔵庫の前まで行き、扉を開ける。冷蔵庫内側の光が部屋をほのかに明るくする。物の下に隠れたビールの缶を取り出していると、背後で物音がして、ドアが開いて、眠そうな顔の妻が起きてくる。こちらと向こうで、無言で顔を合わせる。そのあと、まるで道端で偶然出会った知り合い同士のように、深夜の立ち話が始まる。傍らの食器棚を見て、これはいつ買ったものだっただろうかと問えば、前の住居から使っていたものだから、すでに二十年以上経つだろうと答えが帰ってくる。もうそんなになるのか、でもこの食器棚を買ったときのことを、今でもまだ覚えていると言う。たしか大きな通りに面した家具を専門にあつかう店だったはずだ。いや、今でもよく立ち寄るあの店でしょ?と異論が来て、え?そうだっけ?と思い返して、いやいやそんなはずはないだろうと、あれとは違う、今やすでに存在しているかどうかもわからないような、昔一度だけ行ったことのある店だっただろうと返す。そういえば、この照明もすでに十五年くらいは経つのかしら、と言うので、たしかにね、あっちの部屋のあの照明はつい最近変えたね。とはいえすでに数年経つけど。その前に使っていたガラス製のやつは、あれは良かったね。今でも似たようなものがあれば、すぐ取り替えたいくらいだ、と言う。そのへんで対話をきりあげて、妻はふたたび寝に戻り、僕はビール缶をもってまた部屋に戻る。