「The Way I Really Play」Oscar Peterson


The Way I Really Play..


ピアノでガツンと来る強烈なヤツが聴きたいなーと思っていて、じゃあ何を聴きたいのだろう?と思って考えていて、でも元々そんなに沢山知ってるわけでもないし、思い浮かぶミュージシャンなんてまあ限られてくるのだ。


そもそも、その昔、僕がよくわからないままに無理矢理ジャズを聴き始めたのは18才くらいからだったのだけど、とりあえず一番最初にガツンと来たのがオスカー・ピーターソンであった。もう魅了されて虜にされた。ジャズにおけるグルーヴとかファンクネスというものを、このとき一気に腑に落としたのだ。この血湧き肉躍る打撃としての音。そのひとつひとつの粒立ち…。


オスカー・ピーターソン(以下OP)というピアニストは正に筋金入りの、歴史に大きく名を刻む、本当の意味でのグレート・ジャズ・ピアノ・マイスターのひとりだと思うけれど、でもその演奏を最高に素晴らしい、そこにすべてがある、ジャズという音楽の偉大な到達点、とか、そういう風に思っている人は少ないのかもしれない。むしろジャズを聴き込めば聴き込むほど、OPのセンスとか感覚というのは、ちょっと距離をおきたくなるようなところがあるのかもしれない。とにかく、OPのやってる事は、いくらなんでもわかりやすすぎるきらいがある。装飾的でこれ見よがしな早弾き。と豪華絢爛かつ中身の感じられない展開。安っぽい三文芝居。世界とか人生とかの、得体の知れぬ不気味さや異様さや不可解さなど想像もしていないかのような場所から鳴らされる自信たっぷりの紋切り型。…そんな風に断定して、もっと「高尚で難解」なところへ旅立つというのもアリだ。いや実際、それは確かにその通りなのだ。そういう風な聴く態度というのも、それはそれで大切なのだと思っている。


でもOPのサウンドというのはやはり、いつかはそこに帰ってきたくなるような原始的な快楽が大量に含まれているのも間違いないだろう。グルーヴに乗って力任せに叩きつけられ、そのまま夥しい音符をちりばめつつ音階を駆け上っていく一瞬を聴くと、ああピアノというのは要するにこれで良いのだ、こういうものなのだと納得してしまう。得意げで、オレって上手いだろ?と云わんばかりのチャラチャラした感じだけど、でもその音の艶やかでかつ確かな重みも有した感触というのの魅力には抗いがたい。


と言う訳でOPヘビロテ期間が一週間を過ぎようとしている。先週はじめに聴いてたのが「At The Stratford Shakespearean Festival」というヤツで、ギター・ベース・ピアノのトリオ演奏で、本当に久々のOPのサウンドを体験して、それだけで充分に良い気分だったのだけど、そういう幸福もろとも吹っ飛ばして、実に久しぶりな興奮状態にまでもってかせてくれたのが。ここで紹介したい「The Way I Really Play」である。一曲目のWaltzing Is Hipががーっと始まるときのすさまじさと言ったら!これこれ、これですよ僕が求めていたのは!!っていう感じだった。


MPSレーベルのOPは音がとても良い、という話はどこかで聞いた事があったようにも思うけど、聴いてみたら本当にぶっ飛ぶくらいのハイクオリティ・サウンドである。1968年録音とは思えない!…というとちょっと大げさか、でも本当にクリアな音だ。ってか、それまで「At The Stratford Shakespearean Festival」のおせじにも良いとは言えない音質を聴いてたから、そのギャップがものすごかったというのが印象に与えた影響はは決して少なくないと思うが。


ということで、この文章は「The Way I Really Play」というアルバムが素晴らしい、という話なのだが、一曲目Waltzing Is Hipもさることながら白眉はやっぱ4曲目Sandy's Bluesでしょうか。これぞブルースだよOP!嫌みったらしいブルージイさも全然許す。もう大好きである。