「ファスター・プッシーキャット キル!キル!」


ファスター・プッシーキャット キル!キル! [DVD]


CS放映の録画してあったものを観る。はじめて観るラス・メイヤーだが、非常に面白かった。まず自動車の魅力がすごいし、主役の3人もすごい。冒頭で若い男女カップルが車で登場して、スピードを計りたいとか云いだしていきなり車で走り始め、若い男の顔がありえないくらい馬鹿っぽいし、彼女も相当足りない感じで、いやこれ見よがしに馬鹿カップルなのではなくて、一見普通、というかナイスガイと可愛い娘のカップルなんだけどなんか駄目な感じで、その彼女の方が「彼はスピードに夢中なの」とか言って、彼氏が時間計測しててよ、みたいな話してたのに実際に走ってる間、彼女は三人に一生懸命何か話してて夢中になっており、走り終わった彼が戻ってきて「どうだった??」と聞くと彼女は「ごめんなさい話に夢中で計るの忘れてたの」という。すると彼は「そうか、でもいいよ、気にすんなよ」とか言ってるのを観てたらこいつらどんだけ馬鹿なんだろう?と思って大笑いした。。


後半に出てくるぶっ壊れた感じの親子も病んでいて相当すごい。三人娘たちから酷い目に遭わされる一応被害者的な立場なのに、ほとんど悪魔のいけにえに出てきた親子を彷彿させる気味の悪さで、どっちが悪者なのか微妙である。というか、全員悪者、というか、映画の登場人物が全員頭がおかしい。…唯一長男だけがマトモそうに見えて、その長男の表情だけが理性の象徴のように思えて、映画を観てる間中それにすがりたくなる。単なる豪快な女殺人鬼が弱者を皆殺しにする訳ではなくて、この家族が感じさせる雰囲気が、非道で残虐な三人娘たちと不思議な感じで釣り合い、拮抗しているのがこの映画の独特さであろう。


それに、これ見よがしにモラルや良識に挑戦するかのような意志とか、さっぱり意味のわからない理解を超えた不条理な感じでもなくて、ヴァーラという女性のイライラ感はある程度よくわかるところもあって、冒頭のときなんかも、計測して何になるんだい?時間とかどうでもいいんだよみたいな話をその若い男にして、お前は車を運転する事の意味が「速く走る」目的にすり替わってんじゃないの?みたいな意味の事を言って、そういう時計とか時間が、車を走らせることと何の関係があるの?と問いただす。若い男は、限界に挑戦してるんだ、時間という限界への挑戦だ。運動選手と一緒だ、とか言い返す。だったらヴァーラがこの私と競争すればいいじゃん。ごちゃごちゃ言ってる暇があるなら時間とかじゃなくて他人と競争しろよ、アタシに勝ってみなよ、と挑発する。そして、結構卑劣なやり方で勝利を得て、煮え切らぬ思いの相手をコケにして、取っ組み合いのケンカになって、挙げ句の果てにはその男を空手チョップで悶絶させ、首の骨をへし折って殺害してしまうのである。で、そのあと彼女を眠らせて軟禁状態で連れ回し、残りのふたりの女は共犯とかになったらイヤだなあぁと思ってるし、捕まったら電気イスだよ!やばいよ!みたいな事も言うので、皆まんざら頭がおかしい訳でもないので、そういう切れてるんだかマトモなんだか判らないところが面白い。


後半はほとんどの連中が死んじゃうのだが、最近の人や怪物がばたばた死ぬような映画での死に方が、ぐちゃっとケチャップが弾けるみたいな風船が破裂するみたいな超お決まりパターンであるのに較べると、本作の死に方は新鮮である。わりと車でひき殺されたりつぶされて死ぬ人が多いのだが、でもみんなうーーん、とか云って、電池が切れるみたいにして死んでいくのである(笑)っていうか、それだと観ていても、本当に息の根が止まって死んだのかが、画面でははっきりと指し示されないので微妙に不安になる。それって、要するに悪いヤツとかゾンビとかは、最後は跡形もなくはじけ飛ばないと安堵できなくなってるという、最近の映画に毒された状態なのかもしれないが。