Cruisin'


音楽というのは基本的に、はじめと終わりがある形式のものだと思っていたのだけど、クラブとかディスコでかかってるダンス・ミュージックというのだけはちょっと特殊で、そういう場所に行って、そういう音楽を聴いたり踊ったりするというのは、それこそ海水浴に行くみたいな感じで、その場所には常に延々持続するグルーヴがあるという事だけはたしかで、人々は何を目的にその場所へ行くにせよ、不意にそこに近づいたり、また離れていったりするような感じで、その場所と関わるのである。それは場と関わるという事でもあるし、そのように音楽を聴いている、という事でもある。そこでの音楽は単なるBGMではない。BGMというのは聞き流すためのもので、厳密には音楽ではないが、MIXされたダンス・ミュージックというのはBGMとは似て非なるもので、それではMIXされたダンス・ミュージックとは何か?と言ったら…それは、はじめと終わりを消されてしまった音楽の途中の状態のことだとでもいうよりほかはない。もちろん音楽というのはどのような形式であれ、いつかは終わるのだが、少なくとも聴いてる限り、それが終わりに向かってるとか、始まったばかりとか、そういう印象は薄い。只ひたすら寄せては返すだけで、あくまでもその中で、不意にかけがえの無い高まりとかが生成したりもするし、深いスローダウンが発生したりもする。あくまでもその過程の只中においてだけ、そういう事が起こっている。そこにいながらにして、それを感受する。


海水浴に行ったとして、現地についたらとりあえず、海辺で砂浜に寝そべっていても良いし、水に入って泳いでも良いし、波に浮かんで空を見ていても良い。何か食べたり飲んだりしても良い。周囲を見回しても良い。べつに、帰りたくなったらいつ帰っても良い。帰る理由は何でも良くて、その日が日没を迎える(朝を迎える)からかもしれないし「疲れたから」「眠くなったから」「明日仕事だから」かもしれないし、何でもありえる。とりあえず確かな事は、そこへ行けば必ず「海」(大量の海水)がある、という事だけで、そのことだけが、疑う余地がない。そして海水自体が素晴らしい訳ではないのだが、やはりそこに必ず「海」(大量の海水)が、全く根拠のない最大期待値みたいにしてあるという、行けばそれだけは確かだというのが素晴らしい。