「本格小説」を読み始めた


先週から水村美苗の「本格小説」を読み始めた。一週間たってようやく、目次にあるところの「序」と「本格小説のはじまる前の長い長い話」まで読み終わった。ここまでで全体の約1/4くらいだろうが、感想としては「ものすごく面白い」と「たくらみの力が強い」という印象のまだらに混ざった感じだ。でも、読み進むだけならこれはもう、面白さの強烈なちからに引っ張られて、どんどん読み進んでしまう。


表面的にはどこまでもあっけらかんと「私」と私の家族やその周辺についての、昔から今に至るまでの出来事が、延々書き連ねられているのだが、しかしそれを書き連ねることができる理由が、ちゃんと担保されているのだというのは「たくらみの力」によってであるだろう。そして、その力が裏側で一本効いてることが、小説全体に「現代小説」であることの緊張感を与えるのだろう。


とはいえ、僕は単純に水村美苗の書く物語が面白くて面白くて仕方が無い、から読んでいるのだとも思う。「本格小説のはじまる前の長い長い話」のクライマックスにあたる、突如主人公を訪ねてきた男との、研究室〜中華料理屋〜自宅へと場所を変えつつ明け方まで続く会合のシーンのなんとすばらしい事。。その男の正体とか目的とかが全然わからないままでの「謎」のちからで読むものをぐいぐい引っ張っていくのだが、その相手をする主人公「美苗」の、中年の女の期待やら不安やら警戒やら媚態やらの感じが、まるで目の前に濃厚に広がるかのようで、ほとんど陶然としてしまう。