内股の内転筋の弱体化


女性の内股の筋肉が弱って、筋力が落ちてくると、身体の重量および脚自体を支える力が不足して、足が所謂「O脚」になったり皮下脂肪増大によって脚が太くなったりして、姿勢やプロポーションに影響を与える。だから内股の内転筋を鍛えましょう、という話をテレビでやってて、なるほどそういう事なのか、と、深く感じるところがあった。人間の身体を、錯綜する力の寄せ集まりと考えて、引っ張りや詰め込みや凝固がありとあらゆるところで発生しており、その止め処もなく変化する各部位が、ぎりぎりのところで最終的には拮抗して、ひとつの組織としての様相をかろうじて保っている、と想像してみたとき、その僕の中のイメージで「内転筋の弱まり」がもたらすインパクトの、身体にあたえる想像以上に重大で深刻な影響を、直感的に感じた。


おそらくそれはまず、はじめに股関節に多大な負荷をもたらすのだ。大地から重力にさからって突っ立つ両足のその根本の股関節は、もとよりきわめて強大な力を受け止めている部位であるが、内転筋の劣化とはその支点を固定する力そのものの劣化であり、これによって股関節は大幅に身体の中心から外へと向かって離れ始めようとする。上半身を支える両脚は、重心の拡散にともない、直立していながらも股関節に支えられるのではなく股関節につなぎ止められて立てかけられた二本の杭のようになるだろう。そして上半身があらためて、その重量をもって拡散した重心全体を均等に抑えつけ、股関節を従えた腰部全体を若干押し下げることになるだろう。人間が、クルマがサスペンションを切って車高を下げたのと同じ状態になると言うことだ。骨盤全体が二つに引き裂かれるかのような荷重に耐え、股関節はその負荷をひたすら熱エネルギーに変えて発散させつつも、あまりの高負荷に悲鳴をあげながらやがて少しずつ左右に広がり、離れ始めるだろう。両足はその変動に従いながら、なおも自分の仕事を続けるよりほかはない。


僕がある種惹かれていた、人間の身体の力の均衡がほころび始める瞬間というか、均衡しているのだけどそのまま年月を経て風化して、けば立ちささくれだって何とも険しい様相を呈してくる瞬間だとか、寒々しく荒々しい痩せた中年女性の雰囲気というか…そういうものを、前述した「内股の内転筋弱体化」の話が鮮やかに照らし出してくれた感じがする。正直、この話を3年前に聞きたかった。今の僕はもう、身体のイメージを直接描く事をやめてしまったから。しかし重力にさからって均衡する力とその微妙なほころび、あるいは風化とけば立ち、ささくれ立つ印象、といったところは引き続き問題にしているので、そこに対して強力に作用する事には変わりない。内股の内転筋の弱体化によって。