訪問


駅前にはとってつけたような植え込みの植樹に彩られたロータリーと、その周囲に数台のタクシーと、チェーン店の喫茶店や居酒屋やコンビにやパチンコ屋があって、やけにだだっ広い舗装道路がかなり遠くまで伸びている。青い空に、電柱や電線の黒い線の行き来がどこまでも続いていてむなしい。郊外特有の巨大なハリボテ店舗の点在。夜になれば街灯に群がる無数の羽虫と不良少年少女たちがたむろするだけなのだろうと想像される安っぽくて薄っぺらい街並み。あぁ、ここはいつ来ても田舎だなあと思って、改めてウンザリする。駅に降りたち、景色を見渡すや否や、この町全体を軽んじる気持ちが沸き起こってくる。タクシーに乗って行き先を告げると、車はすべるように走り出し、駅前のささやかな喧騒を抜け、あっという間に畑と民家が点在するだけの広々とした風景の中を進む。料金メーターが千円を越え、なんだこれはゴミ屑のように遠いなあと思い、思わずせせら笑いが出そうになり始めた頃、目的地らしき風景があらわれ始めた。無駄な警戒心と猜疑心が具現化したような高くて鬱蒼とした壁。


お世話になっております○○の坂中と申します。○○部の○○様とのお約束で参りました。と告げると、○○さんですね。下の名前は?はい。ええ。どちらの部署ですか?と問われ、名刺を読み上げると、どちらの場所で会われますか?とさらに問われ、いつものあの社屋の名前が咄嗟には出てこないため、しばらく口ごもり、とりあえず何の脈絡とも繋がっていないまま記憶にある二つのアルファベットを独り言のように呟くと、ああ○○。そこの何階?ああ5階ね。はいわかりました、と返されて、適当な文字列がパスワードに一致したみたいな感じで、そのまま入館許可証が発行された。いつもの事ながら苦労させられるが、明日はもっと上手くやれるだろう。入り口の脇にはインフルエンザ対策として、来客はここで清拭せよという意味でアルコール消毒液のビンが2本並んで置いてあったが華麗にスルーしてとりあえず社屋の中に入り、よくぞここまで辿り着かれましたね、とでも言わんばかりに無駄に愛想の良い受付の女性にあらためて本日の用件を告げた。