「旅のあとさき[イタリア・エジプト編]」


福田和也の「旅のあとさき イタリア・エジプト編」をさきほど読了した。エジプトからミラノ、そしてローマへの旅。先週から今日にかけての数日間、この本を開いて読んでいるひとときだけが幸せで、それ以外のすべての時間は灰色の何でもない時間でしかなかった。といいたくなるくらい。しかしなぜ、人が旅行したり旅先でうまいものを食ったりしてる文章をこれほど面白がっているのか、我ながら不思議である。ある意味で、旅行とか実体験、というものが、自分が体験するより、人の経験を聞くという事の、その感触や印象の想像の方がリアルで面白い、というのは、一面の真実なのだろう。とはいえ、良くも悪くも、あまりにも福田和也的で、それはいわば、きわめて俗っぽくて紋切り型な「味わい」であり、体験であるのだが、それでもそれが面白いのだからしょうがない。というか、旅先の景色や料理もさることながら、折々に差し挟まれるナポレオンをはじめとする歴史上の無数の軍人や政治家や実業家や芸術家や思想家や哲学者たちのエピソードのちりばめられたのをいちいち読んでいると、この世にはまだまだ無数のものすごく面白そうな書物やお話が山ほどあるのだなあ、という当たり前の事も改めて実感されて、僕はまだ、これからもまだ、それまで知らなかった事を知る機会をもつ事が可能なのだという、自分の今後の人生も、まだ少しは、楽しい経験がありえて、それを期待して構わないのだ、という、そういう喜ばしさに胸が躍り、本を開いているそのときだけの、幸せな気持ちを味わえるのだ。