松葉杖


会社は一昨日で終了だが、残件がいっぱいあるので昨日も出勤した。そしたらいきなり新たな案件が二つばかり入ってきたのを受けてしまい、それの対処に躍起になってたらあれよあれよという間に時間は過ぎ、終わったときには既に午後7:00を過ぎてた。やろうと思ってた本来の仕事は何も手付かずである。普通に休んどけば何も変わらないままだったのに、来たばっかりに余計な仕事を一日ただ働きして、かつ、何も変わらないままという事態に相成った。。ばかみたい。と思いながら会社を出たら、交差点の歩道に、両手に松葉杖の、寝巻きみたいなジャージ上下に擦り切れたようなジャンパーを羽織ったおじさんが居た。なぜかその場に肩膝を付いた姿勢である。そこから立ち上がろうとしてるのだと思うが、それが上手く行かないのか、その姿勢のままじっとしている。なぜ今、そういう状態になったのか、明らかに足腰が弱い感じだが、何かのはずみで転んで、今ようやくその肩膝姿勢にまで戻ったのか、あるいはしゃがんだ姿勢から立つ姿勢に戻るのに思いのほか難儀しているのか、よくわからないが、とにかくいつまでもその姿勢のままである。


僕は横目で見ながらその場をそのまま通り過ぎてしばらく歩いたのだが、結局引き返した。戻ったら、おじさんは、やはりまだ、さっきと同じ姿勢でその場に同じ姿勢のままで居る…。「大丈夫ですか?」と聞いたら「大丈夫、大丈夫」と即答された。「どうしました?手貸しましょうか?」と言っても「大丈夫、大丈夫」としか言わない。話しかけられるのが軽く嫌そうな表情にも見える。はなしかけたくなる気持ちもわかるけど、いいからほっとけよ、とでも思ってるかのような態度にも見えなくもない。まあそれで多少は安堵する。でも本当に大丈夫なのかわからないので、失礼ながらその場でしばらく見ていた。保坂和志が今連載中の小説の一場面を思い出しながら…。そしたら、そのおじさんはおそらく瞬間的にかなり気合を入れたのだと思うが、そのままゆっくりと少しずつ立ち上がり始めた。そして両膝を曲げた状態でまた、しばらく停止した。


何がしたいのか、それがわからないので思わずもう一度「大丈夫ですか?」と聞いて「何か拾おうとしてましたか?」と聞いた。「手で支えましょうか?」とか、適当に言ってみたが、やはり「大丈夫、大丈夫」と即答されるだけだ。もうどっか行けと思われてる感がやや強く感じられ始めたので、じゃあもういいやと思ってそのまますたすたとその場を離れて歩き始めた。


その場をそのまま通り過ぎて、しばらく歩いた。で、一応念のためもう一度同じ場所まで引き返して、建物の角に隠れるようにそっと現場を見た。そのおじさんはまだその場にいて、そこに立っていて、その後まだ何か、次の動作を考慮中か、あるいは見方によってはやはりまだ難儀しているようにも見えたのだが、とりあえずその場に立っていたのだけ見て、もういいや、終り、と思って、今度は本当にその場から立ち去った。


これを書きながら、正直いつまでもくよくよと考えた。これをブログに書いて良いものかどうかを考えた。(自己保身上) …でもよくかんがえたら永寿総合病院の患者がリハビリしてたのかも、と思って、だったらいいじゃんと思って何の根拠もなくやや安心したので、この文章もそのままアップ!!