風邪


喉の痛みと咳。あと鼻の調子も悪い。げほげほずるずると、オフィスでひとりやかましく、人から「風邪ですか?」と聞かれてしまう程度にはわかりやすく風邪の人っぽい感じになってしまった。でも身体のしんどさや苦しさはそれほどでもなく、わりと普通にやってられる。でも今日に限って色々と人と話す機会が多く、こういう日こそなるべく誰とも話しないで地味にして一日をやり過ごすべきなのに結果はその反対で、やたらと歩き回って喋りまくった一日となったのはなぜか。声を出すだけで結構つらいが、でも喋ってるとなんとか喋れるものだなとも思う。


帰りの電車では、かつてないほどの猛烈な眠気に襲われる。眠いのはいつもの事なのだが、今日はその眠さに凄みが感じられるというか、もう意識が制御できるレベルを遥かに越えた、社会人の眠りを超えた、動物の眠りというか、動物の冬眠的眠りとでも言いたいような、太古からの荒々しい原始的睡魔という感じで、ほとんどその場で死んだも同然であるかのような眠りというのか。ドアの脇に立って本を読んでいる姿勢のまま、自分でも呆れるほど見事に意識がなくなった。そのまま次の駅に着いてドアが開くまで、完全に立ったまま寝た。寝たというより、そのままフリーズした感じ。本を持つ手も動かないし姿勢も変わってなく、膝がかくんとなったりそういうこともないが、それでも意識はなく、しばらくしてはっと気付くと、目の前にいる人がさっきと違う人だ。車内の雰囲気がさっきと違う。でもそれを見ながらまたすっと意識が遠くなった。延々それの繰り返しだ。醒めない夢を見ているようだ。たぶんみんな、僕が寝ているのを見ている、と思いながら、意識がなくなった。いや意識がなくなったかどうか、それはわからない。何度もそこへ戻ってくるから、ああ、また寝てたんだなと、それがわかるという事だ。そんなの説明しなくてもいいか。こういうのも風邪のせいなのかどうなのか。降りる駅が近づいてきたので、さあ降りようと思ったが、その後はっとして再び窓を見やると、すでに次の駅に到着する直前だった。時間で言ったら五秒くらいしか経過してないような気がするけど、乗り過ごしてしまった。この状態なので別に驚かない。でも秋葉原から仲御徒町までほんの五秒。電車を降りて、丁度向かいに来ていた逆方向行きに乗り込む。すごく空いていて冷房が効いており車内が涼しい。さあ、これで生き返った、と思う。目覚めたのだ。一日の始まりだとさえ思う。