ポロポロ


田中小実昌「ポロポロ」(河出文庫)の冒頭の表題作を読む。これはすごい。多分、明日もう一度最初から読むだろう。祈りの言葉…叫んだりつぶやいたり…といった、そういう整然と整った言葉になる前の、心の中のもやもやがそのまま現れたかのような何かしらのことば、というのが「ポロポロ」なのかと思って読み進めるのだが、読めば読むほど、「ポロポロ」が何なのかわからない。というか、それの輪郭を明確にすること自体に意味があるとも思えないが、しかしそれにしても、「ポロポロ」のとらえどころのなさがものすごい。というか、お母さんのこと、お父さんのこと、一木さんのこと、時代のこと、戦争のこと、ゲッセマネのイエスのこと、赤大根のこと、などが、ひとつひとつが、例えようも無く瑞々しい。というか、まあこういうのは読むと生活に支障をきたす。自分の毎日を支えている無意識下で動作しているものの安定性が揺らぐような、本質的な危機感をおぼえるほどだ。