東急田園都市線


十月の始まり。表参道から、東急田園都市線に直通の半蔵門線に乗る。渋谷を過ぎてしばらくすると地上に出る。白い朝の光が車内に溢れてすみずみまで明るく照らされ斜めから差し込む直射日光がゆっくりと移動してきて新聞を読む人の邪魔をする。今まで何度か用賀から世田谷美術館に行った事があるくらいで、それ以外の目的でこのあたりの地域に来た事はない。窓の外の景色を見ていると、別の世界だと感じる。僕の生活する場所とは何のつながりもない、別の空間の別の人々が、それまでずっと別の暮らしを営んで来て、いまもそうしている只中に、部外者の自分が唐突にまぎれこんでしまった感じ。しかし周囲は誰も、僕がよそ者だという事に気付いてない。当然のことながら。電車のドアが開き、乗客が乗り込んでくるが、乗る人よりも降りる人の方が多い。ここにいる皆が、たしかな目的をもって東急田園都市線を利用しており、それぞれの理由をかかえて移動している。僕だけが、そうではないと感じられる。僕だけが、必ずしも東急田園都市線を利用する必要性に説得力を勝ち得ていない気がしてしまう。二子玉川溝の口を過ぎると、車内はしだいに空いていくが、まばらに坐っている人々の誰も彼もがやはりすべて他人ばかりで、僕は自分の降りる駅がいつ来るのか、この次に停まるのか、次の次なのか、それすらよくわからず、落ち着かない思いで、あたりを見回すでもなく見回し、路線図を見上げ、あわてて身の回りをたしかめ、止まった駅のホームの看板を見て、あらためてあたりをもう一度見回して、あと三駅かと思って坐りなおして待つ。何もかもをおぼえていないうちは戸惑うしかない。