輪郭


オフィスエリア専用エレベーターを降りてゲートを通り抜けてから、ビルの広大な吹き抜けの空間の上辺から下辺まで一本で設置された長いエスカレータに乗って三階から一階エントランススペースまで直通で一気に下る。途中向かいのビルの窓の光がきらきらとしているのを眺める。ゆっくりと下まで降りていく。降下している先の降り口のあたりを見ると、いつもの駅の改札へと続く通路の入り口があって、まばらに人も歩いているが、その奥まった先にある電光掲示看板の脇に、長谷川さんの輪郭があった。我ながら面白いと思ったのは、その輪郭が長谷川さんだとすぐにわかった事だ。どこが長谷川さんなのか、説明するのは難しいが、その輪郭は長谷川さんだと瞬時にわかった。まず髪形。まっすぐな長い髪。あと肩から二の腕にかけての線。あのシャツを着てるんだな、という事までわかった。エスカレーターを降りて歩き始めて、輪郭が近づいてきてますますそれは長谷川さんだった。スカートの裾のあたりとかが、ああやっぱりそうだわと思う感じだった。どこを見てもそれが長谷川さんじゃない可能性はなかった。僕は通路を、駅の改札の方向に歩き始めて、横目で輪郭を眺めながらその場を通り過ぎた。薄さは1センチもなかったろう。薄紫色の、すこし光沢のあるプラスティックのような材質に見えた。