フリーダ


カフカ「城」の3章「フリーダ」が面白いわエロいわで笑いが抑えられなくて困る。本当に夢みたいである。夢みたいというのは、まさに文字通り夢みたいだ、という意味である。この出来事のあらわれ方はマジで夢である。あまりにも現実的過ぎて夢のようだ、とでも言えば良いのか。…店の主人がやってきて、Kがカウンターの裏に身を隠す。そしたら、さっきまで外にいたフリーダがすぐ戻ってきて、Kを探すようにしてカウンターに回る。Kが隠れてるすぐそばでフリーダは店の主人の相手をする。Kはフリーダの足に触る。フリーダは店の主人に「測量士はいなかったわ」「隠れてるかもしれない」とか言いながら、Kの胸に足を乗せる。Kはそのとき何やら晴れやかな、自由な気分になる。その後、主人が去ってから、Kとフリーダは固く抱き合う。Kの腕の中でフリーダの小さなからだが燃えている。ふたりは抱き合ったまま床をごろごろと転がる。


僕は「城」は、はじめて読むのかもしれない。高校生のとき読んだかもしれないのだが、全然おぼえてないので、ほぼはじめて読むと思って良いだろう。それにしてもKがこんなに面白いやつだとは意外だ。結構男臭い、乱暴なヤツである。物語の冒頭なんか、まるで西部劇の始まりのような雰囲気すらある。結構態度でかいし、フリーダとも結婚するとか言ってるし…。脇役の助手二人とかもマジですごい。あと、やっぱりものすごく行き当たりばったりに書いてるような感じもする。フリーダと結婚を打ち明けた後の、女将が延々愚痴をいうシーンなんか、これ書きながら考えてるだろというのを強く感じる。そもそも最初「到着」から「バルナバス」ときて「フリーダ」になって、今、女将との対話のとこだが、物語。という感じでは全然、ない。まさに思いつきの、行き当たりばったりな感じしかない。書いてるカフカにとっても、「城」をどうするのかという事について、書きながらリアルタイムで変わっていってるような感じがある。「城」が、現代の不安や不条理や組織や官僚の在り方を象徴しているのだ、というような考え方は、固着的で一面的でつまらないとはよく言われる事だが、別にそう思っても構わないといえば構わないし、明日は別のことを考えているかもしれない。という感じで、お話の中の「城」はぐらぐらとまるで落ち着かないままだ。で、とりあえず出てくる連中が皆面白すぎる。それで異常に濃い夢の中にいるようで、そして夢に出てくる女が皆、異様にリアルなエロさを纏っているのと同じ意味でフリーダは異様に現実的でなまめかしい。