羽虫


ついさっきの、一時間前まで会社にいて仕事していたのに、今、急にここで何か書けって、そんなの書けるわけないでしょ。いや、今家だけどね。でもまだ会社にいる感覚よ。そうだよ、さっきまで会議室にいたんだよ。説明してさ。まだ口の中ぱさぱさだよ。各人のレビューしてさ。来週の遅くともなかば、今月中には何とか提出の格好にしたいからさ。無理してこうして頑張ってんじゃない。ってかね?結果、三人いて、自分のクオリティがいちばん低かったのはオフレコだけどさ。いやちょっとシャレになってないけどね。まいったよね実際。だから自分で読み上げしててさ。うわ、これ相当変な文章だなって自分で思って、いやぁこれ文章おかしくないですか?とか、他人事みたいに、思わず言っちゃったよ。いやぁまあ気持ちはわかるけどねー伝わるものはあるけどねぇーとか言われて、なんだこれ、美大で絵の講評受けてるみたいだななんて、そんな労わりっぽい感想まで出てきて相当苦笑レベルだよ。あーあ、そいでおれだけ書き直しだよ。まあ当然だけど文章テンパリ過ぎだし。まああれでも最低限通るレベルだとは思うけど、さすがにちょっとアレはないかと思って、しょうがないから週末またやり直すよ。でもまあ、今日は電車の中でもずっと資料見てたけど、なんか最近ふと思うんだけど俺って、不思議とこの仕事だけは好きなのかも。なんでかね?これだけは妙に一生懸命やってるわ。お前そうじゃない?うん。あ、そうなの。だよねー。まあそれが普通だよな。実際ほんとご苦労だもん、おれ。休み返上でさぁ、ばたばたして、でもなんか、なぜか不思議と、この仕事だけは集中してやるんだよねおれって。やってると妙にハマッて、いつまでも続けちゃうんだよね。だからまだ全体として、メンタル的にも自分が助かってる部分はあるかも。そうじゃなかったら、誰が好き好んで、こんな終電までずるずる薄暗い会議室のプロジェクタの光の前に集まってんのよ。夏の羽虫じゃないんだからさ。ほんとう、ああ、やれやれって感じだよ。まあいいや、また来週の同じ時間だっけ?うん、わかった。そいじゃまたそのときね。うん。はーい。そいじゃねー。ばいばい。