横浜1


会社の帰りにふと、横浜駅の周辺を散歩してみようと思いたった。横浜で下車して改札を出て、適当に階段を昇って地上に出た。横浜のことはほんとうに、何も知らないので、どこへ出ようが何が見えようが、すべてがはじめて見る景色だ。とりあえず地上に出たと思うが、目の前には高架と高速道路がはげしく折り重なっていて、前方はその構造物以外に何も見えないし、夜空も見えないし、地面もいきなり階段の昇りが目の前を遮っている。地上に出たという感じがしない。全然だだっ広い場所でもなんでもない。とりあえず目の前の階段を昇ったらそのまま商業施設の巨大なビルのふもとを歩いていることになった。すぐ真下には川が流れていた。この川はおそらく海のすぐそばの河口で、きっと水質は塩水に違いない。川面がきらきらと光っていた。…もう書く時間がないので、ここまでとするが、この話はつまり、横浜ベイクォーターの建物の周りを歩いているという情況で、その時点のことを曖昧な記憶のままに書いているようだ。で、そのままあの何とか言う(名前を忘れた)橋を渡って、富士ゼロックスの巨大なビルを見ながら、新高島まで歩いたという事が書きたかったようだ。内容としてそのようなニュアンスは、たしかに感じられる。つまりまったく横浜駅の周辺は歩いていないのだ。そのつもりだったのに、何も知らないから駅を出てから、どんどん歩いて横浜を離れてしまい、新高島の駅前あたりまで来たようだ。結局、再び横浜駅前を目指して逆に方向転換して、やはり人気のない通りを歩いて、結局、横浜の中央郵便局とかいう名前だったと思うが、そういう感じの名前を持つ中央的な郵便曲の脇にある、東と書いてあるような、中央口、と書いてあるようなそれらしい駅の入り口まで戻ってきた。その前に駅の建物の壁に「横浜駅」と書いてあって、やっとかよ、やっとこの名前を見つけたよ。やっとかよ。と思った。駅を出て、駅の表札を見つけたのが道程の終盤というのが、なんとも情けないと僕は性格的にそう感じてしまいがちなのだ。それで、まあとにかく今日は、そこまででとりあえず探索を終えた。まあどこにせよせいぜい数十分の探索ではこんなものだ。観光で外国に行ってあてずっぽうに歩いて何も収穫もなく寂しくホテルに戻ってきたときの気分に近い。そうそう面白いものなんて見つけられないし、ましてや駅前とか駅周辺などという実に一般的で凡庸なイメージすら、いざ自分の足で探してみても見つけられないものなのだ。それが現実である。とりあえずの、ひとまずの感想としては、今日だけでは横浜の事は、まるで、全然わからない。どんな雰囲気の、どんな街なのか。そういう一般的な感想さえ、まったく口にする事ができない。とにかく階段が多くて立体的に色々と交差していて、常に視界が遮蔽されていて、見えるものといったら高層ビルの夜景と川面のきらきらした光くらいだった。