雨が降ったあとの、路面や木々や看板や電柱などすべてが濡れて黒光りしているのは実にきれいだ。いつも思うが、雨の降ったあとを、生まれてから今日まで、いったい何百回も何千回もみて来たはずなのに、とくにここ最近、それをきれいだと思っているのは、なぜなのか。ことに夜だと、なおさらきれいで、きれいと言うよりも、なんと言ったらいいのかわからないような感じで、黒光りした濡れた路面や木々と、真の黒にまみれた影の部分と、少しの灯りに照らされた明るい部分との混ざりあった感じが、ほとんどそこに身体がすいこまれそうな感じがするというか、身体の半分くらいが溶け込みそうな感じがするというか、とにかくそういう、ある暗さの世界、ということだ。水際で、酒を飲みたいという希望を常にかかえているが、最近は雨の降ったあとで、酒を飲むでもいいとも思っている。とにかく、身体が水に溶ける寸前の場所にいて。というところだ。


そういえば昨日は虹が出ていた。空は晴れているのに、雨が激しく降ってきて、やがて止んで、そのまま夕方に近い太陽の光を受けながら、濡れた路面や街並みがギラギラと光っていたので、これはしばらくしたら虹になってもおかしくはないだろうとそのとき気付いても不思議ではなかった。しかし、やはり虹になって、しかも二つのアーチが重なったように空に映っていて、それにしても、今年はよく虹を見ると思った。虹なんて、今までの記憶から思い出しても、せいぜい、十年に一度か二度くらいしか、みてないのではないかと思うが、それが今年だけでもすでに二回見ている。どちらも自宅から見た。どちらもまったく同じ位置にあらわれた虹で、おそらく前回も今回も、同じ虹であろう。その前はたしか、2009年の夏に見たが、それは日比谷の野外音楽堂で山下洋輔トリオの演奏中に見たもの。しかし、たしかそのときも、数としては二本同時に見えた。だから、それもやはり、今回のと同じ虹なのかもしれない。


つまり前回、2009年にたまたま見て、それがなぜか今年に入って、おそらく2009年当時と同じものと思われる個体の再来を、何度か繰り返し見るということで共通しているのが、蛇と虹である。このふたつの漢字の、よく似た感じは、いったい何なのか??