川面


満員電車で次の駅から乗ってきた人に圧されて、車内なかほどまで一気に押されて、車両の連結部の方まで流されてしまって、奥まったところの手摺りに掴まってそこにじっとしたまま、ふと明るい方向に目をやると、前にいる人と人の隙間から、少しだけ窓の外の景色が見える。外は川だ。川というか、今電車は、川の上の鉄橋を渡っている。橋げたの上を走る電車の、轟々と騒がしい音が遠くなり近くなり、というような強弱を付けて車内に響いている。鉄橋は青い鉄柵に囲まれたようなかたちをしていて、その鉄柵は菱形を何個も何個も並べて繋げたような形になっているので、走ってる電車の窓の外から見ると、鉄柵の同じかたちの繰り返しが、何度も何度もコマ送りのようにあらわれては消えていく。まるでゴムのような柔らかいもののように、上から下へと、しなる様に持ち上がってすぐまた下がって、それを短い間隔で何度も何度も繰り返す。その下には、まるで凝固した緑色のゼリーのような川面が、しかしその表面をよく見れば、まるでちりめん皺のような細かなさざなみが、朝日のきらめきと濁りを、微細な網の目の紋様に分解して、目に見えないほどかすかに揺らいでいる。寒そうなさざなみ。そして、とても高い。あのきらめく川面から、十数メートルか二十数メートルにも及ぶような上空、とんでもない高所を、まるで浮かんでいるように走っている。