お盆


手をみる。手のひらにお盆を乗せる。お盆はステンレス製で、直径は40センチくらいある。だから、手のひらにお盆を乗せるという言い方は、ちょっとおかしかった。手で、お盆を持ったというか、持ったと言ってもお盆を普通に持ったわけじゃなくて、下から手で支えてるようなやつ。なんて言ったらいいのかわからなけど、とにかく手で、お盆を…。お盆のかたちの説明から、先にした方がいいのか。お盆というのは、直径40センチの、真ん丸な、円盤みたいなものだ。ステンレス製で、ピカピカしている。球体ではない。円盤みたいな感じである。薄いのだ。厚みはぜんぜんない。ペラペラに薄い円盤のようなものだ。でも硬い。ステンレス製だ。で、淵は少しだけ、上を向いているのだ。上を向いてるっていうか、ちょっとめくれているのだ。上の方向へ。それにはわけがあって、それは後でまた説明する。とにかく、薄い円盤のようで、硬くてステンレスでできていて、淵がめくれている。淵全部がめくれているのだ。淵がめくれたままぐるっと一周している。意味が伝わるだろうか。円盤の淵のところにめくれたものがぐるりと囲ってるような感じなのだ。


で、そういう形をしたお盆を、まずは手に乗せるのだ。手に乗せるというか、手の格好から先に説明した方がいいだろう。まず、自分の手を見ている。そう、最初に自分の手を見たほうがわかりやすいだろうと思って、冒頭にもそう書いたんだけど。まずとにかく、自分の片方の手を見る。手の甲じゃなくて手のひらの方を見よう。見たら、その手を自分の顔の方にぐっと近づけてみる。肘を曲げて、手のひらと自分の顔との距離が近づく。そうなると、手のひらを見ているというか、手首を見ているような感じになっただろう。その状態になったら、そのまま、上を向いた手のひらに、さっき説明したお盆を乗せて下さい。手のひらの位置が、ちょうど、お盆の円盤の中心部分にくるように乗せてみる。お盆は直径40センチなので、あまり手と顔が近すぎると、お盆が顔にぶつかるので、ぶつからない程度に顔から離す。そして、お盆を乗せたら、手を放す。それまでお盆を持ってたほうの手を放すだけだ。下の手はそのまま。お盆はステンレス製なので手が少し冷たいがすぐに慣れる。


そうすると上を向いた手のひらの上にお盆が乗っかった状態になった。これが基本姿勢だ。やってみると意外に簡単だ。お盆の中心の下の位置を手で支えているので、お盆は意外とぐらぐらしないのだ。ここまで来たら、あとはいよいよ、お盆の上にコーヒーカップを乗せてみるのだ。しかも二つだ。二つのコーヒーカップをお盆に乗せるのだ。これで手で支えているお盆の上にコーヒーカップ二つが乗っている状態となる。


もしそれが出来たら、そのときさっき言ったことをぜひ思い出してほしい。さっき、お盆の淵のところがぐるっと一周してめくれてると言っただろう。それはこのことを意味しているのだ。どういうことかというと、お盆の上にあるコーヒーカップはお盆の上にあるだけなのだ。だからお盆の淵がぐるっとめくれていると、そこでがっちりとコーヒーカップをキャッチする。どういうことか説明しよう。コーヒーカップがお盆に乗っていて、お盆の淵にきたとき、お盆の淵がぐるっとめくれていると、そこでがっちりとキャッチするというわけだ。お盆のめくれたぐるっとしたところの意味がわかっただろうか。だったら、もし、これがなければどんなことになるか、想像できるだろうか。これがなければコーヒーはそのまま淵にかまわずお盆の外側へと行ってしまうのだ。それはあれだけ苦労して必死に下から手で支えていても無駄なのである。そのようなことを決して起こさないためのことなのだ。言いたいことが、伝わっているだろうか。あるいは淵のかたちの説明をもう少しした方がいいだろうか。