フロント


申し訳ありません。本日は先に休ませていただきました。恐れ入りますがまた明日、お越しくださいませ。


深夜、ビジネスホテルのフロント。暖房が効き過ぎでからからに乾燥しているので、鼻の中と口の周りはかさかさの状態。朝方に近い真夜中。カーペットの上を靴下で歩きまわる。この手のホテルのフロントはなによりもまず、こうしてひたひたと音もなく歩くのが仕事だなと思う。入り口のでかい自動扉が開くたびに、おそろしく冷たい風が吹き込んでくる。靴を脱いで上がろうとする酒酔い客の猛烈に甘いアルコール臭が漂う。金額を伝えると、下を向いたまま鞄から財布を取り出すのに難儀している。その相手の頭頂部を見るともなく見ている。自動販売機の唸り音だけがいつまでも響いている。こんな泥酔客に朝食引換券の説明をするのがほぼ無意味に思えて面倒くさい。五階ロビーのコインゲームが今日はどうか故障しないでくれますように。拾っても拾っても、タオルとおしぼりとガウンがフロアのどこかしらに落ちているのを拾って、ちらっと窓の外を見ると、外はもう明るくなりかけているようだ。